動物病院、獣医師、ペットオーナーをDXでマッチング!先端医療産業特区・神戸市でつなぐ獣医療とヒト医療

2023年度、ペット産業の国内市場規模が1兆8,629億円に達しました。新型コロナウイルスの影響によりペット飼育頭数が増加。その後はやや減少ぎみではあるものの、ペットを家族の一員と考える人が増えたことで、ペットへの支出は増加傾向にあります。中でも近年の動物病院における医療サービスは、健康志向への需要の高まりも手伝い、ますます重要な販売チャネルとなっています。
そんな獣医療業界の未来を切り開くべく、動物病院とデジタル社会との新たな関わりの形を提案するのが、株式会社アニぴたるです。獣医療業界へDXを普及させ、動物病院の経営を多方面から支援するため、2023年9月「兵庫版シビックテック推進事業(IT事業所開設支援)」を活用し神戸市へ本社を移転。ペット共生社会の実現、さらにヒト医療と獣医療の架け橋を目指す企業の未来について、代表取締役社長である小澤智雄氏に話をうかがいました。
株式会社アニぴたる https://anipital.com/
2020年8月、獣医療業界のDX化を主たる事業に、動物病院の経営支援とペットフレンドリーな社会の実現を目指し、前身となる企業を創業。獣医師・獣看護師の人材登録や、オンライン相談システムの営業権取得など、事業パートナーとの提携を整え、2025年2月、株式会社アニぴたるに社名変更。獣医療テック企業としてDXの全国展開を目指す。
獣医・獣看護師が約50名所属する人材所属会社(株)Eアニマルホスピタルアソシエイツ(滋賀県草津市本社・代表:小澤)を(株)アニぴたるの100%子会社として4月から稼働を予定。
【事業内容】動物病院向けシステム開発および販売、患者向けオンライン相談事業、動物病院向けメディア事業
【所在地】神戸市東灘区御影3-2-11
【設立】2020年8月
【代表者】代表取締役社長 小澤智雄

■代表取締役社長 小澤智雄
2001年、システム開発を行う株式会社ウェブスクウェアを創業。求人や人材マッチングなどを中心としたパッケージの開発・販売に取り組む一方、獣医師や獣看護師の求人メディアをいち早く立ち上げ自社で運営。2023年10月、株式会社アニぴたるの前身企業との資本提携により経営に参画。2025年3月、代表取締役社長に就任。
動物病院とデジタル社会の新たな関わりづくり

2001年に私が設立したシステム開発会社で、獣医師・獣看護師のための求人サイトをリリースしたのは約15年前のことです。他職種と同様、インターネット上で就職・転職活動を行いたいという潜在的なニーズがあったにもかかわらず、求人サイトや求人メディアはほとんど存在していませんでした。
そこで、すでに弊社で開発していた一般向けの求人システムを、獣医療業界向けに整えてリリース。動物病院の運営にはそれほど明るくありませんでしたが、自らニーズを発見し求められているメディアを積極的に開発運営したことで、獣医療業界にも詳しくなっていきました。すると、いろいろな課題に目が届くようになりました。
例えば、オンライン相談サービスです。獣医療業界に詳しくない異業種が運営に参入してもほとんど継続できませんし、IT企業が関わるとIT系のニーズに偏った使い勝手の良くないシステムになってしまいます。
そんな状況から、動物病院にもいち早くDXを浸透させる必要性を実感した私たちは、2020年に株式会社アニぴたるの前身となる企業を立ち上げました。2023年9月には獣医療DXの全国展開を目指し、神戸市への移転を決意。翌2024年1月に、既存の遠隔相談プラットフォーム「アニぴたる」の営業権取得に成功したことを踏まえ、2025年2月に社名も株式会社アニぴたるに変更。新たなサービスの開発に励んでいます。
情報やコミュニケーションの場を発信し経営支援

現在弊社では、「アニマルホスピタル・ヘッドラインNEWS」というメディアサイトの運営を行っています(媒体元:株式会社エフアールエフジャパン、本社:東京都、代表:早田明)。先進獣医療に関する新しい治療法の話題や、医療機器、薬剤、フードなどの新製品情報、人材採用から病院経営にいたるまで、ホットな話題や情報を全国の動物病院に発信しており、2025年4月からはメールマガジンも発行する予定です。
この情報提供サービスは、11,000病院に向けて配信を行いますが、この軒数は全動物病院の91.6%にあたり、国内の動物病院をほぼカバーしています。このデータをもとに、(株)エフアールエフジャパンと連携した新たな事業が、「オンライン相談・診療システム」に「獣医スタッフコマ管理システム」を組み合わせた新システムの販売です。
従来のオンライン相談は、「うちの犬に食欲がない」「セカンドオピニオンが欲しい」など、飼い主たちがオンラインチャットのスレッドに相談を書き込み、獣医師や獣看護師が同じくチャットで回答するサービスでした。このシステムを、リアルタイムでやりとりができる即時性機能を加えたプログラムへ向上するため、弊社の100%子会社で獣医・獣看護師50名が所属する人材所属会社(株式会社Eアニマルホスピタルアソシエイツ、2025年4月稼働予定)を中心に、獣医師たちのシフトを管理する「獣医スタッフコマ管理システム」の開発に取り組んでいます。
獣医師の空き時間を管理し、獣医師と動物病院とのマッチングや、飼い主と動物病院とのマッチングの仕組みづくりにより、病院のすき間時間のムダをなくすことができる上、受診前に医師とのコミュニケーションを図ることで飼い主の不安も払しょくでき、来院に導きやすくなります。
実はこうした事業を、私たちは神戸市で展開したかったのです。
支援で実感した「兵庫県・神戸市は本気だ」

神戸市への移転の理由に、兵庫県や神戸市がスタートアップ支援にとても熱心なことが挙げられます。ホームページを見た瞬間、本気度が伝わってきました。支援施設である起業プラザひょうごも旧居留地にあり、スタートアップをかっこよくサポートされていて「さすが兵庫県・神戸市、スターアップ企業に与えるポテンシャルが高い」と思ったのです。
また、自治体担当者の方々に「この出会いを大切にしたい」と思えるほど、丁寧な誠意ある対応をしていただいたおかげで、2024年2月には兵庫県の「兵庫版シビックテック推進事業(IT事業所開設支援)」と随伴して神戸市が募る「スタートアップ立地促進事業」に採択いただくことができ、神戸市へスムーズに移転することがかないました。
神戸市の魅力は、コンパクトな都市でありながら混雑せず、近隣都市とのアクセスも良いこと。海が近く山もあり、閑静なエリアも多いため生活環境に恵まれています。転職を考える人にとって、住環境は次の職場を選ぶきっかけや業務へのモチベーションにつながる大切なもの。人材採用における大きなメリットですし、県外から移転してくる優良企業が兵庫県や神戸市に定着するきっかけにもなると思います。
そしてもうひとつ、私たちが神戸市に移転したかった理由は、先端医療産業特区である「神戸医療産業都市」の存在でした。
獣医療の成果をヒト医療の発展につなぎたい


獣医療業界に精通している事業パートナーを通じ、動物愛護の理念に基づく動物病院を日本で初めて開設された獣医師を紹介され、お付き合いが始まりました。その先生が神戸医療産業都市に、動物の高度医療センターをつくりたいという夢を持たれていたのです。
医療分野では通常、ヒト医療で得られた成果が獣医療へフィードバックされます。しかし先生は「ワンヘルス・ワンメディシン」、すなわち人間の健康を守る医療も動物の健康を守る医療も一つだという考えのもと、獣医療での成功をヒト医療にフィードバックできないかと考えていらっしゃいました。
ヒト医療分野での先進的な開発は、長い年数と膨大な費用がかかるため、形になることなく消えてしまう研究も多々あります。その開発分野を年数も費用も抑えた研究が可能な獣医療が担い、実績を上げた開発を社会実装させてヒト医療に応用できれば、医療はもっと加速度的に発展するのではないか。そんな想いを温めている私たちにとって、医療の最先端にいる企業・団体が353社・団体(2025年2月現在)も集う神戸医療産業都市は、とても魅力的な場所だったのです。
DXの力でワンヘルス・ワンメディシンを!
先端医療産業特区のまち神戸市で、ヒト医療と獣医療をワンヘルス・ワンメディシンでつなぐ架け橋役を担いたい。世界にインパクトを与える先端医療を、神戸市で生みだす一助になりたい。それが、弊社の企業コンセプトです。
臨床の現場で獣医師が先進医療に取り組み、その成果をヒト医療にフィードバックすることも、神戸医療産業都市でなら期待できるのではないかと思っています。
先端医療産業特区のまち神戸市で、ヒト医療と獣医療をワンヘルス・ワンメディシンでつなぐ架け橋役を担いたい。世界にインパクトを与える先端医療を、神戸市で生みだす一助になりたい。それが、弊社の企業コンセプトです。
臨床の現場で獣医師が先進医療に取り組み、その成果をヒト医療にフィードバックすることも、神戸医療産業都市でなら期待できるのではないかと思っています。
そのために弊社は、まずシステム開発の分野で獣医療業界の課題を解決したいと考えています。オンライン“相談”からオンライン“診療”へ。さらにAI診断サポートの開発へ。神戸市への進出が予定されている大手AIベンダーやITベンダーとの連携により、DXが当たり前にある獣医療現場を実現すべく、今後も邁進してまいります。
(文/内橋 麻衣子 写真/株式会社アニぴたる 提供 )