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Interview 2022.1.31
次世代「共有交通」システムで地域課題を解決! 生まれたのは、働きたかった女性たちが活躍できる場所

マーケティングを柱に、様々な移動事業を展開しているWILLER株式会社。2017年3月、豊岡市の掲げるビジョンに共鳴し市内に事業所を設立。さらに2020年8月には、兵庫県の「IT戦略推進事業」の事業者として地域へのさらなる貢献を目指し、新規事業の事業所も開設。豊岡市最大の地域課題である、女性の若者回復率(*)向上に大きく貢献している。自社の強みやビジョン、事業のミッションを明確に打ち出したIT企業と、地域課題を確実に把握している自治体との出会いから生まれるメリットや未来について、WILLER株式会社 カスタマーマーケティングDep.マネージャーの藤光昭洋さん、豊岡市環境経済部環境経済課 企業支援係長の佐古大覚さんに話をうかがった。

*若者回復率:進学などをきっかけに10代で市外に転出した人数に対し、就職などをきっかけに20代で市内に転入した人数の比率を示す数字

移動ソリューションで目指す地域活性化

藤光昭洋(以下、藤光):弊社の高速バス「WILLER EXPRESS」に搭載している、人気のオリジナルシート。実は、お客様の声から生まれたものです。また、高速バスの乗車チケットがカウンターで販売されていた時代に、いち早くポータルサイトを立ち上げオンライン販売を始めたのも弊社です。

座談会などを通じて常にお客様の声を集め、サービスに反映させるマーケティング力と、実際の運行現場を知っている現場目線。安全・安心という基盤の上に、新しいテクノロジーの力を積極的に取り入れ、事業を展開していく企業姿勢。これらが、弊社の強みだと自負しています。

さらに近年は、自動運転やシェアリングモビリティサービス、新たなアプリケーション開発などにも挑戦。ストレスのない移動サービスの提供を通じ持続可能な社会の構築を目指すMaaS(マース*)への取組が始まっています。「人の移動すべてをサポートし、バリューイノベーションを起こすサービスをつくる」を目標に掲げ、MaaSを単なる移動手段としてとらえるのではなく、サービスやコミュニティと掛け合わせることで移動体験を変え、人々のライフスタイルを快適にしたいと考えています。

例えば、在宅勤務者が自動運転車両で移動する際、出発地から目的地まで単に道路を自動で走るのではなく、「自動運転車両からシェアサイクルに乗り換え、気持ちをリフレッシュさせてから、在宅ワークができるホテルへ行く」というように、生活の目的に合った移動サービスを提案することが、弊社のMaaSです。

そんなオリジナリティの実現に向けて開発したのが、AIオンデマンド交通サービス「mobi(モビ*)」。「人とひとがつながりコミュニティが生まれる、コミュニティモビリティ」をコンセプトに、自家用車の「ちょいのり」や自転車や徒歩に代わる、今までにない新感覚の「ちょいのり」サービスです。

関西では2021年6月に京丹後市で活用が始まりました。高齢者ドライバーや、一家で複数台の車を所持している家庭が多い地域ですが、免許や車を手放しても、バス停や定路線がなくても、mobiなら自家用車を使っているようなストレスのない感覚で、移動できます。また、アプリ操作が苦手な高齢者のために、電話予約も可能な形態にするなど、サービス開発に工夫を凝らしたことも特徴です。

そんなmobiの運営拠点となるオペレーションセンターを、豊岡市に立ち上げました。

*MaaS(マース:Mobility as a Service):地域住民や旅行者一人ひとりのトリップ単位(出発地から目的地まで)の移動ニーズに対応し、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせ、検索・予約・決済等を一括で行うサービス。

*mobi(モビ): 人とひと、人とまちがつながりコミュニティが生まれる「Community Mobility」をコンセプトとした月額定額料金で家族みんな乗り放題になるAIシェアリングモビリティサービス。アプリや電話で呼び出し、エリア内の行きたいところへ自由に移動できる、これまで利用していた自転車やマイカーに代わる、新たな共有交通。

【WILLER株式会社】
1994年、移動を主体とした社会貢献度の高いビジネスを始めるため「株式会社西日本ツアーズ」として創業(現・WILLER株式会社)。新たな価値を創造する独自のIT・マーケティングシステムにより2006年より高速バス「WILLER EXPRESS」、2015年にはローカル鉄道「京都丹後鉄道」の運行を開始するなど「都市間交通」「市内・域内交通」「ワンマイル交通」の3分野における移動サービスの提供と、移動ポータルサイト運営をはじめとしたコンテンツビジネスを展開。また、ASEANや日本での自動運転やライドシェアサービスなどの次世代モビリティを意識したモビリティサービスの進化にも挑戦している。

WILLER株式会社/WILLER, Inc.
URL https://www.willer.co.jp/

事業内容: AIオンデマンドサービスや自動運転などのワンマイル交通事業、地域に特化した鉄道・バスの運営による域内交通事業、高速バスの運営による都市間交通事業、移動ポータルサイトの運営などによる旅行・コンテンツ事業、海外現地法人や合弁会社等の設立による海外事業など
所在地:大阪本社/大阪市北区大淀中 1-1-88-600 梅田スカイビルタワーイースト6階
東京オフィス/東京都目黒区下目黒1丁目8-1 アルコタワー7階
豊岡オフィス/豊岡市大磯町1番79号 但馬地域地場産業振興センター5階
連絡先:koho@willer.co.jp(Public Relations Office)※広報に関するお問い合わせ
代表者   代表取締役 村瀨茂高

豊岡市のビジョンに共鳴し事業所を開設

※WILLER豊岡事業所のあるじばさんTAJIMA

藤光:2015年4月より、WILLER TRINSとして、京都府宮津市に本社を置く京都丹後鉄道の運営に携わり始めたことで、沿線地域のひとつである豊岡市とのつながりが生まれました。「Local & Global City」を目標に掲げる豊岡市の先進的なビジョンに共鳴し、弊社の事業を推進させていただける地域だと確信。雇用創出も含めた地域活性化につながる取組を目指し、2017年3月WILLER株式会社(以下、WILLER)の事業所を立ち上げました。

豊岡オフィスは、既存のトラベル事業にかかわるお客様への対応センターとしてスタート。その後、MaaSへの事業展開に伴いmobiのオペレーションセンターも新たに開設することになり、mobiのアプリや基幹システムを作り上げることから準備を始めました。トラベル事業のお客様対応センターとして、顧客ニーズを把握した4年間の経験値が新事業に活きたと思っています。

そして2020年8月、MaaS事業を推進するためのmobiオペレーションセンターが、豊岡オフィスに新たに立ち上がりました。1カ所の実証実験から始まったmobiですが、現在アプリをご利用いただける地域は、北海道4カ所、東京1カ所、名古屋、京丹後、海外2カ所。一年でずいぶん拡大できました。

オペレーションセンターのスタッフは、約20名。その9割が地元出身の女性です。離職率も低く、一年以上働いている人ばかり。これから作り上げていく新規事業に、一から携われることがモチベーションのひとつになっているようで、職を探している知人に弊社を紹介してくれるスタッフも一定数いるほど、働きやすさを感じてくれています。

この事業所開設にあたり、豊岡市の担当者である佐古係長に紹介いただいたのが、兵庫県のIT戦略推進事業補助制度でした。

補助制度が生む「伴走」という自治体支援

佐古大覚(以下、佐古):WILLERには、地域へ大きく貢献していただいています。豊岡市の人口減少の原因のひとつは、若い女性の人口が減っていること。若い女性が働ける職場を作ることが、豊岡市の人口減少対策のトップ課題です。そんな中、20人近くもの女性を事務職で新規採用していただいています。女性活躍推進の視点からとらえると、シンボリックな存在の事業所です。

IT戦略推進事業補助制度の紹介を通して豊岡市が手伝ったのは、新オフィス開設のための調整や、新規スタッフの採用です。市の女性活躍推進事業を担当しているジェンダーギャップ対策推進室には、子育て中の女性や働きたいけれど働けない女性の就労促進に向け、女性を採用したい企業とのマッチングを図る事業があります。そこに参加していただき、人材採用の後押しを行いました。

藤光:ちょうど採用活動に苦戦していた時でした。紹介いただいたことで、新規スタッフの採用につながりました。この助成制度では、事業所開設にかかる資金面の支援がとても助かったのですが、リスクを伴う新規事業には、こうしたサポートが精神的にもありがたかったです。また、自治体とのパイプがつながるだけでなく、太くなる良さも感じています。県や市からの後押しは、事業を推進する上での自信にもつながると思っています。

佐古:以前、視察に来られた複数の企業に「自治体に求めることは何か」と尋ねたところ、「伴走」という答えが返ってきました。ビジネスを始めるためには、キーマンとなる地元のステークホルダーに可能性を感じてもらうことが大切です。私の部署は環境経済課ですが、自分の課だけで解決できることなど、ほとんどありません。ひとつの課だけではなく、農業や福祉などあらゆる部署を横断し、キーマンとつないでくれる職員を見つけられるか。補助金など目に見える支援制度だけでなく、そうした「つなぎ役」としての役割も自治体には大切だと思っています。

藤光:弊社もいろいろな部署の方につないでもらっているからこそ、うまく進んでいる取組もあります。現場で動くメンバー同士が、いかにうまくつながれるかが大切だと感じています。

もう一つお願いしたいのは、起業家をバックアップする仕組みの発信です。新規事業を始めたい人、起業したいと思っている人は一定数いるはずですが、思い切ることができなかったり、どうしたらいいのかわからず悩んでいる人もいると思うんです。また、関心がそれほど高くはないけれど興味はあるという人たちには、自ら情報を探しにいけない人もいるでしょう。そういった層にもっとリーチできれば、挑戦してみようと思う人も出てくるのではないでしょうか。

企業がチャレンジすべきは、地域課題解消への貢献

佐古: 2021年4月、豊岡市は芸術と観光を学ぶ芸術文化観光専門職大学を開学しました。学生たちの8割は女性で、そのほとんどが県外出身です。豊岡市に残ってもらうためには働く場所がとても重要ですから、ぜひWILLERさんにも学生たちの実践の場として、インターンシップを利用していただきたい。豊岡市で学んだ人たちが、豊岡市の事業所で働く循環を生み出したいと思っています。

藤光:雇用の創出が弊社に求められているミッションの一つであることは、よく理解しています。どれだけ貢献できるか、チャレンジしていきたいと思っているんです。

佐古:そしてもう一つの地域課題がモビリティ、すなわち「移動」です。高齢者の運転免許返納もその一つ。例えば、高齢者の移動は病院や買い物など決まったコースです。中でも通院なら、一度病院に行くと次回の受診日も決まります。受診日の予約と同時に配車の予約もできれば、帰宅時や次回の受診日の配車予約がめんどうだから免許の返納に踏み切れないという、高齢者たちの課題解決につながるかもしれません。

藤光:例えば、病院などにmobiを導入いただければ、スマートフォンの操作が苦手でバスやタクシーの予約ができない高齢の患者に代わって、病院スタッフが配車予約を行えます。豊岡市でも実現できると移動における課題が解消し、生活が大きく変化していくと思います。

佐古:高齢者の場合、予約状況が本人ではなく家族に届けばいい。一人暮らしでも、離れて暮らす家族に通院していることがわかるので、生存確認にもつながります。それだけでもmobiを導入する効果は十分高いと思うんです。

藤光:地域貢献は企業にとっても社会課題。役に立ちたいという想いは大きいです。

弊社でもこの事業を様々なエリアへ拡大していくために、これから取り組まねばならないことがあります。お客様への対応基準を整えること、そのためにしっかりお客様の声を聴き、課題の改善につなげるPDCAサイクルを高速で回していくこと、お客様との信頼関係を育てるため、積極的に座談会などの取組を行い、サービスやシステムに反映していくことなどです。mobiのサービスに新たな展開を生み出すキーになる場所が、豊岡オフィスだと思っています。

移動サービスで人をつなぎ、豊岡市の価値を高めたい

藤光:豊岡市は、県外からのアクセスも便利なうえ、衣食住を満たす環境がすべて整い、暮らしやすい場所だと感じます。観光資源も豊富なのでワーケーションのような感覚もあり、リモートワークが推進されている昨今の状況からも、都市部から移住して働く人の生活も豊かになるのではないでしょうか。

地元出身のスタッフたちも、居心地がいいと言います。高校を卒業後、一度は県外に出て戻ってきた人たちが職を探すとなると、都市部に比べ限定されがちです。先進的で刺激のある仕事を、地元の人たちと一緒につくり上げていくことが大切だと思っています。

私も豊岡市に移住して6年が経ちますが、新しくできた施設や店舗も多く、元気をもらっています。新しい事業を、軌道に乗せたいと思っている若い人たちは多いはずです。成功事例を数多く作り、発信力を高め、横のつながりを育てれば、まちに活気が生まれ豊岡市の価値を高めることにつながります。

まちに移動が増えれば、人と人がつながって、新たなコミュニティが生まれます。まちに生まれる活気につながっているのが、私たちの事業であればいいなと思っているんです。

つながるだけじゃなく太くなる!「IT戦略推進事業補助制度 IT事業所開設支援」

新規事業を立ち上げる際は、ぜひ最大限活用してください! 自治体とのパイプがつながるだけでなく、太くなることを実感できるはずです。人と人とのつながりが生まれるきっかけをいただけたり、自分とは異なる視点からのアイデアをもらえたりすることで、新たなビジネスチャンスにつながると思います。

希望があるとすれば、デジタルシフトをより積極的に推進してほしいこと。効率もよくなり、データ活用による新しいサービスも生まれてくると思います。民間企業とコラボレーションができる仕組みがあれば、さらに面白くなりそうですね。異業種の方々とフラットにコミュニケーションをとれる場や機会が生まれることを期待しています。

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(文/内橋 麻衣子 写真/三好 幸一)

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