光科学×情報技術が生んだ測定技術で半導体・宇宙開発に貢献!躍進を支える「スピード」と「人材」
「Mother of Science(計測は科学の母)」の言葉が示すように、計測技術の進化なくして科学研究や技術開発は成り立たちません。株式会社Holoway(以下、Holoway)は、独自のデジタルホログラフィ技術で光学測定の分野にイノベーションを起こし、ものづくりに革新的な付加価値を生み出すスタートアップです。
2023年8月、「ひょうごイノベーション拠点開設支援事業」として神戸市が募る「スタートアップ立地促進補助制度」の事業者に認定され、事業の成長に大きな期待が寄せられているHoloway。地方大学発スタートアップのロールモデルを見据え、半導体・宇宙領域への進出を目指すグローバルな事業展開について、代表取締役CTO佐藤邦弘さん、取締役CEO 佐藤雅仁さんに話をうかがいました。
株式会社Holoway https://holoway.co.jp/
光波動を電子情報として捉える”デジタルオプティクス”を応用した、独自のデジタルホログラフィ測定技術を実現。”大面積”×”ワンショット”×”ナノオーダー”測定を可能にした全く新しい測定ソリューションを、半導体・宇宙等の先端産業へ提案。グローバルリーディングカンパニーとして、デジタルホログラフィ測定の国際標準化を目指す。
【事業内容】デジタルホログラフィ技術を活用した精密測定装置の開発及び製造、販売
【所在地】兵庫県神戸市中央区東川崎町1-8-4 神戸市産業振興センター7F
【設立】2023年(平成5年)4月
【連絡先】TEL.078-958-8285
【代表者】代表取締役CTO 佐藤邦弘
代表取締役CTO 佐藤邦弘
25年超にわたり兵庫県立大学にてデジタルホログラフィ技術の工業測定への応用に関する研究開発に従事。JST STARTプログラム(*)にて代表研究者を務めた後、2023年にHolowayを設立。京都大学大学院工学研究科博士課程。兵庫県立大学大学院工学研究科名誉教授。
取締役CEO 佐藤雅仁
メガバンクでの法人営業・ファンド投資等を経て、産業革新投資機構で投資企画・ファンド投資等を担当。特に大学発ユニコーンスタートアップ創出をテーマにイニシアチブを持って投資活動を推進。現在はCEOとして経営企画・事業開発等を統括。
*JST STARTプログラム:科学技術振興機構(JST)による、大学等発ベンチャーが事業化を目指すための大学発新産業創出プログラム(START)
大学発スタートアップの成長こそ、先端技術の普及になる
佐藤雅仁(以下、雅仁):Holowayは2023年4月、代表取締役である佐藤邦弘が研究開発を行ってきたデジタルホログラフィ技術を事業化するため、兵庫県立大学発スタートアップとして設立しました。大学の研究開発で生まれた技術をグローバルに育てたい時、自分たちで事業を立ち上げることが最も合理的で、成長スピードも高められると思っています。
佐藤邦弘(以下、邦弘):背中を押したのは「危機感」でした。国際学会に参加すると、日本の先端技術の開発力が以前と比べてものすごく落ちていることがわかります。理工系を目指す学生が減っている中で「サイエンスやテクノロジー分野を活性化させる刺激になれば」という気持ちでした。
それまで取り組んでいた核融合研究に代わる新しいテーマとして、物理法則とコンピュータ、レーザー光源、光電子デバイスを活かした研究に着手しました。そこで独自のデジタルホログラフィ技術が生まれたのですが、広く普及させるには「研究者が主体となって事業化するしかない」と大学から勧められ、応募したJST START プログラムに採択されたのが始まりでした。
地方大学には、最新の先端技術が集積しています。地方大学発スタートアップが日本の産業構造に根付けば、人材育成の大きなチャンスになり得ます。サイエンスやテクノロジー分野を志す人たちのモチベーションにつながるのではないかという期待も込めて、Holowayの研究開発を世の中に普及させたいと思っています。
光科学と情報技術の融合が生んだ測定イノベーション
雅仁:光学測定において、「ものを見る」ことへの全く新しいアプローチに挑戦したのがHolowayです。通常はレンズやミラーを用いた光学操作により像を得ますが、実空間での光学操作には精度を初めとした様々な限界があります。 Holoway独自のデジタルホログラフィ技術では、光の波を見ます。光の波をイメージセンサーによってデジタルデータとして捉え、GPU(*1)を使って解析処理することで、今までにない精度やスループット(*2)での測定が可能になりました。 例えば、ものづくりの現場で、加工面の形状を正確に測れないために、精密な加工ができない事例は数多くあります。面形状をより正確かつ高スループットにデータ化することで、フィードバックを通して加工技術自体のクオリティアップにつながるのです。 測定は、インフラです。ものづくりを支えて押し上げ、付加価値をもたらして初めて存在意義が生まれます。測定イノベーションを通して、ものづくりQCD(*3)を高めるインパクトを生み出すことが弊社のミッションです。
*1 GPU:Graphics Processing Unit(グラフィックスプロセッシングユニット)、画像・映像の処理装置
*2スループット:一定時間あたりの処理能力やデータ転送量を表す用語
*3 QCD:Quality Cost Delivery(品質・コスト・納期)
圧倒的なスピード感、確かな市場価値、高い汎用力
雅仁:Holowayの強みのひとつは、事業リソースを研究開発に集中させたファブレスモデルであることです。研究開発に特化したスピード感のある企業形態は、成長速度が求められるスタートアップには大きなメリットだと思っています。
もうひとつがジャパンアドバンテージ、すなわち日本という市場にいる強みです。半導体製造装置や検査装置の領域において、グローバルトップシェアを誇るプレーヤーたちは、国内に多数存在しています。Holowayが光学測定の国際標準化に挑戦する中、世界規模で訴求力を持つパートナーが同じ市場にいるというのは、非常に大きな強みだと考えています。
さらに、様々なアプリケーションやプロダクトへ展開可能な汎用性の高さも挙げられます。2024年12月、半導体産業に特化した国内最大級の国際展示会「SEMICON JAPAN 2024」で、デジタルホログラフィ技術による平面度測定装置の実機デモンストレーションを行ないましたが、半導体業界の方々との意見交換を通して、平面度測定に留まらない様々な課題・ニーズにも貢献できるということを実感しました。
こうした展示会への出展など、認知度を高める機会をいただけるのは、兵庫県・神戸市の事業制度を活用したおかげですが、メリットはそれだけにとどまりません。
人材へのアプローチも後押し! 神戸市「スタートアップ立地促進補助制度」
雅仁:事業所の開設にあたり、オフィスは近郊の都市圏で構えたいと思っていました。サポート制度を探したところ、最も支援内容が手厚かったのが「ひょうごイノベーション拠点開設支援事業」として神戸市が募る「スタートアップ立地促進補助制度」でした。
「人」で勝負しなくてはならないのが、スタートアップです。取引先の開拓にも人材の採用にも、都市圏との往来が便利な神戸市内は好立地。2024年4月の資金調達と同時に現住所へ移転して採用活動を始め、8月末には組織の規模が当初の2倍になりました。
また、兵庫県や神戸市には、地方ならではの魅力があります。すでにスタートアップ市場が成熟している東京と比べ、エコシステムは日々ブラッシュアップされています。自治体やメディアとの距離も近いため、自社が成長過程にいることをアピールでき、プレゼンスを高めやすいのです。その結果、優秀な人材へのアプローチにおいて優位に立つことができます。
地方大学発スタートアップを軌道に乗せるには、ビジネス視点の人材が欠かせません。顧客ニーズに基づいたプロダクト化を視野に入れ、ソリューションベースの行動指針を持つことが必要です。事業会社での経験豊富なIT人材を採用しプロダクト開発を加速できたのも、人材採用に資金を充てられる兵庫県・神戸市の補助制度のおかげです。
兵庫県や神戸市がスタートアップ拠点としてますます盛り上がれば、優秀な人材や資金がさらに集まって来るでしょう。そのためにも、Holowayが成長企業のロールモデルとして貢献できるよう、頑張らなくてはと思っています。
Holowayの測定技術が、世界のスタンダードになる日
雅仁:Holowayが達成すべき最優先事項は、半導体製造や宇宙開発といった先端技術を支えるインフラとして、デジタルホログラフィ測定をスタンダード化(標準技術化)すること。
そのための一つ目の取り組みは、半導体の検査装置・製造装置に取り入れる光学ユニットの開発です。グローバルなトップシェアを持った企業に採用されるよう、性能をますます磨いていきます。
二つ目は、宇宙領域への進出です。2024年1月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)より、宇宙空間に大面積の高精度ミラーを設置するための測定計の研究開発を受託しました。
邦弘:地球の表面上から4万キロ先の宇宙空間にミラーを設置するのですが、今はまだ宇宙空間で平面度を正確に測定する方法がありません。この研究が新たな測定分野の誕生につながると思っています。
雅仁:そして三つ目は、Holoway自らが測定・検査装置のメーカーになることです。ミッションであるものづくり自体へのインパクトを直接的に追及していくために、光学ユニットに留まらず、我々自身で装置を仕上げて、ユーザーに付加価値を届けていきたいと考えています。
地方大学発スタートアップのHolowayが、技術の力で世界と戦うために、企業としてもっともっと成長していきたいと思っています。
(文/内橋 麻衣子 写真/松本 果織)