地方を変えれば日本が変わる。 世界一幸せな島へ。目指すは淡路全島クラウド化!
兵庫県内の情報通信産業の振興と地域活性化に取り組むIT企業の進出を支援する、兵庫県の「IT戦略推進事業」。その事業者として、2021年6月に洲本市に事業所を開設した福山秀仁さん。500 KOBE ACCELERATOR(*)やUrban Innovation KOBE(*)の運営、兵庫県のIT企業誘致コーディネートに携わったことで、地方への関心が生まれ可能性を感じたと話す。地方が持つ可能性を活かし、豊かなコミュニティを育むために、福山さんが取り組む事業について、さらに「地方創生の中核的な場所」と位置付ける淡路島への想いについて語っていただいた。
*500 KOBE ACCELERATOR(ファイブハンドレッド神戸アクセラレーター):米国のベンチャーキャピタル「500 Startups」と連携した神戸市のスタートアップ育成プログラム
*Urban Innovation KOBE(アーバンイノベーション神戸):スタートアップ・ベンチャー企業と市職員が協働して神戸市の地域・行政課題を解決する事業
起業家の“二刀流”、冷静な思考とインスピレーション
もともと独立志向があったんです。「人と違うことをやりたい」と思い、最初の会社はインドで立ち上げました。今から10年以上前のことです。帰国から3年後の2017年には、2社目を神戸市で創業。当時から神戸市は、スタートアップの育成や、地元企業とスタートアップの連携を目指し、興味深い取組を始めていて、何かできないかと思ったんです。
なぜインドだったのか、どうして神戸なのかとよく聞かれるんですが、まずは場所への直感です。人や環境が、受け入れてくれる場所かどうか。「いらっしゃい文化」と勝手に名付けていますが、例えば神戸は、一見さんを受け入れてくれるような土壌を感じました。
もうひとつ大切にしているのは、人の動きや経済の流れといったビジネス的なデータです。その場所を事業に取り組むマーケットとして眺めた時、そこに拠点を置くことでビジネスにどんな広がりが生まれるか、また自分自身が事業家としてどう見られるかを冷静に考えています。
インドは、当時はまだ注目されていないエリアでしたが、長いスパンで考えると必ず世界規模の市場になってくると感じていました。そうなる前にインドに向かい、ビジネスに取り組み始めたという事実が、仮に事業に失敗したとしても自分の財産になると思って飛び込みました。
そして今、そんなインスピレーションが働いた場所が、淡路島でした。
福山秀仁
ネットワークエンジニアとしてのキャリアスタートから、IT業界に15年以上従事。スタートアップ、外資系ソフトウェア企業などで事業開発と海外展開の支援を中心に行い、2017年に神戸市で起業。社会課題の解決に取り組む「まちづくり」に活動を拡げ、2021年6月、洲本市でマルクファミリー株式会社を創業。代表取締役「家長」として、共生・共助を大切にした家族のような企業集団を目指している。
マルクファミリー株式会社/MULK Family Inc.
URL: https//mulkfamily.co.jp
事業内容:モバイルサウナ開発運営、ツーリズム型グルメサイト開発運営、自治体/地方企業
DX支援・地方副業コーディネート、島内遊休地オールキャンプサービス など
所在地:兵庫県洲本市海岸通1-7-19 2F
連絡先: info@mulkfamily.co.jp
代表取締役家長 福山秀仁
地方創生の最前線エリア、それが淡路島だ!
神戸で携わった事業の一つが、「兵庫県IT企業誘致・ビジネス創出コーディネーター(*)」という広報活動でした。県内の各自治体職員の方と共に、地場産業の担い手と首都圏クリエイターによる共創プロジェクトを形にしてきたのですが、活動を続ける中で地方への可能性を感じると同時に、自分の中に葛藤が生まれていきました。
当時の私は東京を生活拠点に、仕事の都度神戸に帰ってくる働き方でした。地方でこんなに頑張っている人がいるのに、東京に暮らす第三者的な立場の私が企業の誘致活動を行っていいのか、自分自身も同じ地方の経営者として取り組むべきなのではないのかという迷いでした。一緒に活動していたコーディネーターたちが、地方の起業家として関わっている姿も刺激になりました。
さらに東京と比べて地方では、提案への反応に手応えを感じることができました。「ありがとう」「あれは良かったですね」と、直接話しかけてもらえる人間関係の濃密さや豊富なフィードバックが、地方ならではの魅力に感じられたのです。
そんな中でも、特に淡路島は地方創生における最前線地域のひとつだと思っています。人類がコロナ禍を経て一人ひとりが自分らしい生き方や豊かさを求める時代に、本質的な地方創生の流れが生まれようとしていると思います。つまり、画一的な地方創生という活動ではなく、その地域だからこそできる個性的な地方活性化の事業や施策が必要だと考えています。
瓦や線香などの伝統的な地場産業がある一方、屈指のリゾートエリアとして飲食店や観光施設といった新たな事業がどんどん生まれている場所。それが、淡路島なのです。
*兵庫県IT企業誘致・ビジネス創出コーディネーター:兵庫県と協調しながら、県内へのIT関連事業所の誘致を推進するための広報活動に取り組む活動
東京に暮らし、淡路で働く!?
淡路島の魅力は、「島」であること。形状や地理的な存在感、人をワクワクさせる高揚感があります。しかも、離島ではなく島の両端に橋がかかっていることで、物流の通過点として往来も多く、地域外から来る人に対しオープンマインドな住民が多い気がします。さらに人口約13万人は、国内の有人島の中では最多(*)。何かにチャレンジをする上で、社会インパクトの観点で魅力的な数字だと思っています。
その一方で、淡路で生活を始めてみると、改めて経済規模が大きくはないことを実感しました。コロナ禍により地方移住者が増えたとはいえ、東京一極集中の状況は何ら変わっていません。東京でしか経済が成り立たないとなれば、「働き口が東京にしかない」「東京にしか住めない」となり、地方はどんどん衰退していきます。それはすなわち、日本の衰退という危機です。決して大きくはない地方の経済規模で、東京のような巨大な規模とどう共創してゆくのかを考えると、今までとは違う地方創生のやり方を取り入れなくてはなりません。
私たちの事業の命題は、淡路島内に新しい雇用を生み出すこと。例えば、兼業や副業が認知されてきていますが、これは地方の立場から捉えれば、いい流れだと思っています。「地方へ移住しなくても働ける」という新しいスタイルになるからです。兼業によって優秀な能力を共有できるのは、地方からすれば大きな魅力です。
こうしたコラボレーションは、今後の新しい採用の仕方、新しい働き方になるはず。やり方を変えることで淡路に集まってくる人たちと、地元に貢献できることを探してゆけるのは、大きな期待感でもあります。
そんな新しい雇用へのこだわりが、「ファミリー」と名乗っている弊社の社名です。ただ労働力を提供してもらい対価を払うのではなく、関わってくれた人たちとの間に家族的なつながりを育んでいきたい。仕事を通じた人とのつながりや営みに重きを置いていくのは、働き方が多様化するからこそ、気の合う仲間で楽しいこと、意味あることをしたいという理由からです。やはり地方ならではの魅力的な働き方だと思うからです。
そのためには、成長スピードをどこまでコントロールするかも重要です。例えば、どんなに人気が出たパン屋でも、大量生産を行う工場は持たず、一日100個だけを愛情込めて焼き上げたパンで地元に喜ばれたいという気持ちを持ち続けられるか。それこそが、持続可能な事業運営と地域社会との共生・共助を重視する現代の家族経営であり、SDGsの根幹でもあるはず。この気持ちは忘れたくないと思っているんです。
*令和3年10月現在、北海道・本州・四国・九州・沖縄本島を除いた人が住んでいる日本国内の有人島が対象
*令和3年11月から代表の福山氏は洲本市に移住
淡路島をまるごとクラウド化せよ!
マルクファミリー(株)として、取り組もうとしているのは大きく「医・食/職・充」の4つの事業です。
1つ目は「モバイルサウナ開発とコミュニティの運営」です。なぜサウナなのか。それは、私が10年来のサウナ―だからです(笑)。バスを改装して「走るサウナバス」をつくろうとしています。
社員の健康管理が企業の責務かつ財産になる時代です。例えば、バイタルデータの把握といった社員の健康を可視化できるIoT実装は、今後ますます大切な要素になってくると思っているのです。
さらにこのモバイルサウナは、動くメディアにもなります。島内や近隣地域のイベントなどに活用したり、先端のテクノロジーを実装して、企業や地域のプロモーションに活かしたいと思っています。例えば、自動運転の実証実験のため遊休地を走らせるなど、自治体も巻き込みながら企業にアプローチしたいですね。
2つ目は、「ツーリズム型AWAJISHIMA Food D2Cサイト運営開発」です。海外会員様向けに、島の良質な厳選食品が定期的に届くD2Cサイトを開発しています。淡路島にはいい食や資源が多いのに、県外や海外への発信が不足しており、特に海外の人にあまり知られていないのが現状です。淡路島のいろいろな食品を知って食べてもらうことをきっかけに、生産者さんを訪問できるファームやファクトリートリップを企画します。これにより、インバウンド需要拡大の可能性も高まります。地域全体のブランド化にもつながり、小規模生産者をはじめ地域の人にも喜ばれる経済の循環が生まれるものと考えています。
3つ目は、「自治体・地方企業DX支援・地方副業コーディネート」です。まずは自社の採用を通じて、現状の立ち位置と今後の課題感を自分自身で体験し、実証したいと思っています。
そして4つ目は、「島内遊休地オールキャンプサービス」です。島内の遊休地を、オフグリッドのキャンプ場としてサイトでのマッチングを図り、キャンパーに提供します。相続放棄などにより、ますます増加傾向にある休耕田などの空地を再生活用するための、ソリューションの一つになる事業です。
これら4事業を通じ、最終的には淡路島全体のクラウド化を目指しています。住民からインバウンド観光客まで、より便利に、より効率的に、より楽しく暮らせる淡路島の実現が目標です。
そのために最も解消したい地域課題は、交通です。淡路島は、車社会です。ただ、高齢になると車の運転も難しくなり、二次交通の整備も不十分なため移動が制限されることがあります。自動運転も含めた様々な移動手段の模索が必要になりますが、そこで期待できる土地が淡路島だと思っています。例えば、「自動運転でモバイルサウナを走らせたい」など、IT事業にとって実証実験は必要不可欠。淡路島の遊休地や空地を活用することで、地域課題の解消にもつながると思っています。
これからの日本の成長戦略・生存戦略に、デジタルは不可欠です。こうしたモデル事業を淡路島から広げてゆくことで、日本の課題を解決した先ではそのソリューションを世界に輸出することだって可能になるのです。その拠点に淡路島がなれるかもしれないと期待しています。
行政に求めるものは、地域への誇り
実は4つ目のキャンプ場事業は、パートナーとの出会いによって関わることになった共同事業です。兵庫県のIT企業誘致などで淡路島を訪れていた頃、キャンプ場のマッチングサイトを運営している企業の話をうかがったことが縁となり、現在は弊社の取締役として仲間に加わっていただいています。初めての土地で起業する際には、その地域の中でつなぎ役となってくれる人の存在は、必要かつとても重要です。
そんな関係は自治体との間でもぜひ育みたいのですが、そのきっかけになるのが補助金制度です。行政が用意している制度を利用することで、通常なら接点が生まれないような場合でも、自社の存在を認知してもらうことができます。地方で新たな取組を始める際は、その地域とのつながりをつくるための行動を自ら起こすこと、その行動のサポートとなるつながりを育てることが必要だと思っています。
例えば新しい取引先を開拓したいとき、地元の商工会や信用金庫などが紹介役を務めてくれることで自社への信頼が相手に生まれ、話がスムーズに進むことが多々あります。それは、事業化のための地域課題を見つける過程においても同様です。計画とは、営業です。資料やデータの分析だけに頼ってひとりよがりにならないよう、様々な人の話を聴きに行けるフットワークの軽さやマインドがなくては、うまくいきません。
一方、自治体に求めたいのは、日々アンテナを張り、企業が求める情報を即座に提供してくれる体制です。外に出て、地域資源や地元の住人、地理的環境を俯瞰することで、淡路島の本当の魅力がわかってくると思うのです。これからは、自治体の運営も営業活動です。営業マインドが必要だと思います。自分のまちを愛し誇りを持って、私たちと一緒に事業環境をつくってゆこうというスタンスを、大切にしていただきたいと思っています。
日本を変えてゆくのは、地方だ!
これから、地方はおもしろくなってくると思います。
「どういう生き方をするのか」「どういう働き方をしてゆくのか」と自分に問うたとき、選択肢は限定的ではないと知って欲しいです。
今は東京に暮らしながら、地方で働ける時代です。「地方vs.首都圏」という二項対立的な話でも、「都会か田舎か」という二者択一でもなく、淡路島のような地方も一つの都市と捉え、選択肢の一つだと考えれば、もっと柔軟にいろいろなことに取り組めるはずです。
地方創生は、日本の創生でもあります。日本を創生してゆくためには、要素の一つである地方という都市に経済の循環を生まなければなりません。そのために大切なのは、自社も含めて稼げる企業をいかに増やせるか。淡路島という地域の中の経済循環、さらに中央との間の経済循環が生まれることで、本当の地方創生がかなっていくと思っているのです。
マルクファミリーに興味が湧いたら、「一緒に何かできませんか?」と声をかけていただけると嬉しいです。地域での事業は、地元の人材と、首都圏や海外からの人材との混ざり合いによって化学変化が起こります。たくさんの人を巻き込み、自らも巻き込まれることで地方から日本を変えてゆきたいと思っています。
サウナだってITだ!「IT戦略推進事業補助制度 IT事業所開設支援」
人件費も含めた開設経費の補助は、モチベーション高くスタートを切ることができるので、費用以上のサポートであると思っています。また兵庫県が認めた事業者として、信頼を周囲が感じてくれるため、物事がスムーズに進んでいく気がしています。
「IT戦略推進事業」は、ITとしての多様な視点を持って、様々な事業を捉えればいい。今やITはインフラです。あらゆる事業がITとつながっているため、視野を広げることで新しい事業の発想が生まれるはずです。大切なことは、自分から積極的に動くこと。仮にうまくいかなくても、次にどう活かすかによって失敗ではなく経験になります。まずは動くところから、可能性は広がってゆくものです。
(文/内橋 麻衣子 写真/マルクファミリー株式会社 提供 )