IT × ものづくりで現場の困りごとを解決!害獣対策機器の唯一無二を目指すイーマキーナ

( Records )
2023.03.29

兵庫県神戸市にある2018年設立のイーマキーナ株式会社は、電子機器の製造・販売をするベンチャー企業。創業から5年目を迎えたイーマキーナの主力商品であるIoT対応機器「Evasi(エバジー)」は、害獣被害に頭を抱える店舗や施設に対し、人体に影響のない超音波を国内トップレベルの音圧で出力し、有害獣を忌避させる装置を提供し、次々と効果を出し多くの自治体や事業者からの支持を得る会社へと成長を遂げました。

そんなイーマキーナは、2018年の創業時に「IT戦略推進事業 IT事業所開設支援」の補助制度を利用して事業所を開設し、事業を加速させていきました。同社代表取締役の藤井誠さんに本支援からどのような事業の広がりが生まれたのか、お話しをうかがいました。

イーマキーナ株式会社
URL https://emachina.co.jp/
【事業内容】
電子機器の企画、設計、製造、組立及び販売
産業用機器製品の企画、設計、組立及び販売
コンピューターシステムの開発、設計、及び販売
ソフトウェアの開発、設計、及び販売
PLC、制御盤等の開発、設計、製作及び販売
労働者派遣事業及び人材派遣業務
中小企業及びベンチャー企業に対する総合経営支援
【所在地】​​〒657-0833 兵庫県神戸市灘区大内通2-1-5
【連絡先】078-200-5452
【代表者】代表取締役  藤井 誠

【藤井 誠】

IT関連企業に16年半勤務し、デジタル機器の普及ソフトウェアの進化と共に、国内市場のインフラ整備等、現場作業の指揮をはじめサービス企画、営業を経て、その後ものづくりの製造業へ事業承継の依頼があり転職を決意。IT業界と製造業の遅れにギャップを感じながら、製造業×ITをコンセプトに掲げていたが実現せず、2018年7月に自身でイーマキーナ株式会社を設立。自社開発のIoT機器の開発に取り組んでいる。

(参考)
https://www.hyogokai.or.jp/uploads/ICT%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC2023.pdf

お客さまの悩みごとに寄り添うハードウェアの開発

イーマキーナの創業以前は、尼崎にあるものづくりの会社で働いていました。その会社で新規事業として害獣対策アイテムとして超音波機器の開発に約4年間携わっていました。ところが会社の方針で事業の撤退が決まり、すでにいるお客さまもいましたし、困っている方もたくさんいたので責任感や使命感から独立してイーマキーナを立ち上げました。 前職では実現できていなかったことや取り組めていなかったことを機器に反映し、超音波で害獣を寄せ付けないIoT対応機器『Evasi(エバジー)』をメインに、スマートフォンやクラウドサービスを活用した電子機器の製造・販売製品をしています。

イーマキーナでは、世の中にないハードウェアを作っていきたいと思っています。私は約20年前にオフィスソフト「Windows95」が登場した時からIT業界に携わってきました。時代の流れと共に、ソフトウェアが成長するとインフラ整備が進んでいくということを目の当たりにしてきました。インフラが整ったことで、今ではクラウドを活用したさまざまなサービスが登場して、ますます便利な世の中になってきました。私たちもソフトウェア開発を行いますが、それ以上にソフトウェアをきちんと動かせるハードウェアの存在は非常に重要だと思っています。だからこそ、末長く使っていただける機器をつくりたい、という強い思いで取り組んでいます。

会社の設立にあたっては、前職の会社が尼崎市にあったのでそこで会社を構えることも検討しましたが、神戸に自宅があったので磯上エリアで起業しました。尼崎市での起業を検討していた時のご縁で、公益財団法人 尼崎産業活性化機構の当時の担当者から神戸新聞社が運営するコワーキングスペース併設の会員制レンタルオフィス『​「120 WORKPLACE KOBE(イチニーマル ワークプレイス コウベ)」ができると聞き、1社目の入居者になったんです。

以前の会社では東京で活動もしていたので、もちろん東京でビジネス展開をするのも非常に面白いと思いましたが、生活は兵庫県のほうに心地よさを感じていましたし、人口も適度で子育てもしやすいというライフスタイルにもはまったこともあり、神戸市で起業しました。いろいろと制度の面でも神戸市は進んでいる地域だなと実感しています。

起業したてで資金力もそれほどない中で、事務所を構えた翌年2019年からは販売店さんと共に精力的に展示会に出店しながら、お客さまの声を直接お聞きしながら地道に営業や認知拡大に取り組んできました。神戸から全国に商圏を持ちたいという思いで取り組んでいます。

ベンチャー企業の事業注力を後押ししてくれる「IT事業者開設支援」

元々、会社員をしていたのもあり自宅を仕事場にするという考えがなかったというのもありますが、会社としての信頼を獲得するためにも事務所を構えるということは大事だと考えていたので、起業時にやったこととしてまず最初に事務所を探しましたね。

当時の神戸市はまだIT事業者の数もそれほど多くない時ではあったと思いますが、兵庫県が実施する「IT事業所開設支援」を受けることができたからこそ、「​​120 WORKPLACE KOBE」に入居することができ、事業推進に注力できたと思っています。

「IT事業所開設支援」は、事務機器の取得や賃借料、通信回線使用料、人件費などの経費の一部を補助してくれるものです。創業時の2018年から3年間の補助を受けられたというのは、非常にありがたかったですね。

補助金をいただけたことで、複合機やパソコン、書庫やWi-Fi機器など必要なものを揃えることができたのは本当に助かりました。3年間という補助期間も、当社にとって「3年でスタッフも増えて事務所が手狭になって移転するぞ」と成長目標を持ちながら、事業にも勢いがついていったと思います。

創業したての会社は、気迫や根性はあっても信用もなければお金もありません。私も最初は「無借金経営をしよう」と豪語していた時期もあったのですが、創業時は本当に何も持っていないんですよね(笑)。だからこそ、行政による信用やお金の部分を支援していただける制度があることを有効活用できれば、もっとベンチャー企業は成長しやすくなると思います。 当社にも会社を立ち上げたいと相談が寄せられることもありますが、その中で「IT事業所開設支援」など起業や事業を後押しする支援があることを知らない方も大勢います。近年ではフェイスブックなどのSNSを活用して、兵庫県や神戸市などが支援情報も発信していると思うので、こうした情報をベンチャー企業も逃さないようにできるといいなと思いますね。

民間事業者と行政の協働で事業をさらに加速させる

※「ひょうごTECHイノベーションプロジェクト」中間報告会にて齋藤知事とパネルディスカッションを行った

兵庫県や神戸市がこうした行政による支援に非常に力を入れているという実感もしています。当社が特にそれを感じたのは、2022年5月に市町が抱える地域課題と企業の技術をマッチングさせて課題解決を目指す「ひょうごTECHイノベーションプロジェクト(※)」に応募させてもらった時ですね。

かつては、自社独自で実証実験をした結果を持っていても行政や公共施設などでは受け入れられないことも多々ありました。今回、プロジェクト参画の事業者として採択され、県内の中学校での実証実験がスタートしました。これまで、民間事業者が学校を利用した実証実験をするのは非常にハードルが高いものでした。しかし、「ひょうごTECHイノベーションプロジェクト」に採択されてから行政の方たちと議論を重ねる中で「民間事業者の社会貢献をしたいという取り組みに、行政が一緒になって考えてくれて、仕事ができる時代になったんや」と思いました。今、特にベンチャー企業ではファンドを入れるということはトレンドだと思いますが、開発支援などのプロジェクト一つひとつの支援があることはとても重要で、ありがたいなと感じます。 「ひょうごTECHイノベーションプロジェクト」での実証実験では、学校敷地内で鳥獣被害に悩まされていたことから、音圧の高い超音波と光の技術を組み合わせて、動物が学校に近づくことを防ぐ忌避対策の有効性を探っています。当社の「Evasi」を屋外に設置し、屋外にいる動物がどのような行動をとるのかを検証し、機器の効力を調べています。今回は、機器を設置する前に約2週間かけて調査したのちに、機器を設置してその増減を確認しています。

※開発した屋外用スピーカー
※カメラも設置し、シカの動向を調査

他県でも行政の事業支援を活かして害獣対策に取り組まないかとご紹介をしていただける機会も増えました。兵庫県は車で1時間あれば山間に行けます。海側から山側までのアクセス性の良さが魅力的だと感じています。例えば山手の方に事業所を構え、オフィス兼検証場所をつくって、独自で実証実験もできるような形も進めていけたらと考えています。

関東をはじめ全国展開へと事業を拡大させていきたいですね。また、海外展開も視野に入れていて、シンガポールなど東南アジアから製品を展開していきたいと考えています。そこにも神戸市の支援制度を活用させてもらっています。製品の開発・販売に対して自社の努力を惜しまないことはもちろんですが、プラスアルファとして行政の支援があることはとても心強いです。他の地域でも害獣問題に悩むところはたくさんあるので、行政の支援も活かしながら事業をさらに広げていきたいと思っています。

※「ひょうごTECHイノベーションプロジェクト」:兵庫県内にある様々な社会課題・地域課題について、主に県内の起業家や事業者が有する情報通信技術を中心に、ものづくりや建築・土木等の工業技術などを活用し、その課題解決を図っていこうとするプロジェクト。スタートアップ企業をはじめ、さまざまな事業者と課題を抱える各市町職員が協働して、地域課題解決に向けた解決手法を設計し、新たなサービスの構築・実装を目指している。

事業の助走期間になる「IT戦略推進事業 IT事業所開設支援」

この補助制度があったからこそ、事業として最初の一歩を踏み出せたと思っています。会社からの信頼を得るもののひとつが事務所だと考えて最初に取り組みましたが、事務所を構えることで維持・管理していくためにさまざまな経費がかかる中で、助走をつけて事業を展開できる制度だと思います。

文/草野 明日香 写真/林 杏衣子