人と地域をつなぐ「体験」という贈り物 ギフトマーケティングで地方都市の魅力を掘り起こす

「写真を全く撮ってこなかった私たちが、プレゼントしていただいたのをきっかけに、やっと1枚残せるようになり嬉しいです。」
写真スタジオでのフォト撮影を、ギフトによって体験した利用者の感想です。こうした喜びの声が続々と届くソウ・エクスペリエンス株式会社は、体験をギフト商品として提供している企業。創業から20年が経ち、地方都市での商品開発拡大に一層力を入れ始めた時、兵庫県にビジネス創出のためのマッチングサポートがあるという情報をキャッチ。兵庫県「ITカリスマ」の認定を受けたIT企業誘致・ビジネス創出コーディネーター小田垣栄司氏の仲介のもと、兵庫県の支援事業に参加されました。
現地で体感した兵庫県の可能性とサポート事業の魅力について、ソウ・エクスペリエンス株式会社でセールスマネージャーを務める熊澤康宏氏に話をうかがいました。
【会社概要】
ソウ・エクスペリエンス株式会社
https://www.sowxp.co.jp/(販売サイト)
https://corporate.sowxp.co.jp/(コーポレートサイト)
「体験は、消えない贈り物」のコンセプトのもと、レジャーから趣味の教室、知育玩具、スペシャルティコーヒーまで、およそ200種類に及ぶ商品・サービスを体験コンテンツに編集し、ギフトとして企画・販売。2005年の創業以来、150万人以上が利用する新しいギフトカテゴリーとして定着している一方、ギフトマーケティングとして消費者と企業・店舗の関係構築にも大きな役割を果たしている。
【事業概要】体験ギフトの企画・販売
【所在地】東京都渋谷区千駄ヶ谷3-60-5 オー・アール・ディ原宿ビル B1F
【設立】2005年5月
【連絡先】info@sowxp.co.jp
【代表者】代表取締役社長 西村 琢

【代表取締役 熊澤康宏】
体験ギフトの企画・販売を行うソウ・エクスペリエンス株式会社の創業に携わり、2006年に入社以降、主に法人向けセールスを担当しながら加盟店開拓、商品企画、設計に従事。副業が自由な会社規定のもと、2011年より広告企画・デザイン・営業支援の会社を創業。多忙な日々を送っている。
人・企業・店舗にコミュニケーションを育む「体験ギフト」

「事業とは、メッセージ(思い)を伝えること」
2005年の創業時、弊社の代表取締役社長である西村琢がブログに残している言葉です。
イギリスで出会った「EXPERIENCE GIFT=体験を贈るギフト」を、日本にも定着させたいという西村の“思い”から、ソウ・エクスペリエンス株式会社ははじまりました。興味はあっても、チャレンジする機会がないコトやモノをやってみることで、視野を広げたり知らなかった趣味の楽しさを見つけたりしてほしい。そのきっかけを、体験ギフトという形にして贈ろうというサービスです。

また、この事業はギフトマーケティングの側面も備えています。贈られた人たちが「ギフトをもらわなければ、一生やることはなかった」と話すように、消費者には興味の無かったコトやモノに触れる機会が生まれ、体験コンテンツの提供者である企業や店舗には、顧客開拓や商品開発の可能性が広がります。
新しい体験から、楽しさや豊かさを受け取っていただきたい。消費者と企業・店舗間につながりを育んでいただきたい。体験ギフトは、弊社からのそんなメッセージです。
これまでの事業は、都市圏に暮らす人たちに向けた都市型サービスを柱にしてきました。創業から20年を経て次のフェーズへ向かうにあたり、地方の隅々にまで魅力的な体験コンテンツの発掘に訪れ、日本中に販売チャネルを拡大する必要性を話し合っていたところ、このたび兵庫県の支援事業を教えていただきました。
2024年9月、東京・飯田橋で小田垣氏のコーディネートによるビジネスマッチング交流会が開催され、弊社も参加したことが始まりでした。
東京でつかんだ手ごたえを、神戸市と豊岡市で実感!
交流会は、兵庫県の事業者と東京の事業者とのネットワークを育み、各社の事業拡大のきっかけをつくろうというものでしたが、新たな取り組みへのチャレンジ精神に富んだ方が多く、兵庫県というコミュニティへの期待が高まりました。

年が明けた2月には、小田垣氏に勧めていただき兵庫県の視察へ。県職員の方が、体験コンテンツをテーマにしたセミナー形式のイベントを神戸市の起業プラザひょうごでセッティングしてくださり、私に登壇の機会を設けてくださったことで多くの地元事業者の方々と出会うことができました。
例えば、丹波市で酒蔵を改装したレストラン事業を展開されている株式会社西山酒造場さんの施設やサービス、また、神戸ポートタワーを体験施設として活かす可能性を模索されている株式会社フェリシモさんの発想にも心を惹かれました。

さらに、このイベントの翌日には豊岡市の施設や企業を視察する機会をいただき、期待していた生々しい情報に触れたり、つながりが生まれたりしたことで、満足度は100%でした。

城崎温泉や豊岡劇場(*)といった有形の施設に加え、新鮮だったのは、豊岡市全体が「アート」というキーワードを行政面でも経済面でも丁寧に展開され、市が一体となってまちづくりに取り組まれていること。県立の芸術文化観光専門職大学(*)という学びの場まで用意され、全国から学生が集まっていたり、アートの匂いをかぎ取って来た移住者が新しいビジネスを始めていたり、アートの連鎖がまち全体に影響を及ぼしている希少性も印象に残りました。
こうして体感することができた兵庫県の数々の可能性は、事業者の方々や商品・サービス以外の面でも実感することができました。
*豊岡劇場: 1927年に開館した映画館。地域住民に愛されながらも2012年に閉館。「再び地域に文化の拠点を作りたい」と市民団体の手で一般社団法人が設立され、2023年に営業が再開された。
*芸術文化観光専門職大学:2021年開学。芸術文化と観光の二つの視点から地域活性化を学ぶ日本初の大学。
兵庫県は、上質な「仲人」だ

兵庫県に感じたもう一つの可能性は、県職員の方々の存在です。わざわざ東京まで同伴されたり、セミナーを主催してくださったり、その後の商談の場にも加わられたりする様子に、相当な熱意を感じたのです。「県として事業拡大をサポートしていくんだ」という積極的な気持ちが姿勢に示されていることで、オフィシャルな後ろ盾があることへの安心感を手にすることができました。
利益を追求する企業同士の場合、顕在化しているニーズばかりを念頭に置き、速効性を求める商談に終始しがちです。しかし、商談成立の成果を追うのではなく、将来性という枠組みの中で製品・サービスの可能性やコンテンツの魅力について柔軟な情報交換ができたのは、双方にとって大きなメリットでした。
それもこれも、県職員の方の仲介により「兵庫県」という信頼感のもとで、各事業者が向き合えたためだと思います。三角形で話ができる、まさにお見合いですね。兵庫県は上質な「仲人」でした(笑)。
また、視察先のコーディネートにおいても、体験コンテンツのストーリー性を重視する弊社の思いをくみ取っていただき、事業者を紹介してくださいました。その結果、「ストーリーを語ることができる!」と思える製品・サービスと数多く出会えたことが、今回の視察の大きな成果でした。
予期せぬ出会いが生むストーリーという“化学反応”
禅問答のようになりますが、ストーリー性を大切にしたいコンテンツに、語らせたいストーリーは「無い」ことが大切だと思っています。
最も重要なのは、その地域が持つストーリーが、そのまま立ち上がってくること。体験コンテンツの企画・販売者として、語らせたい価値を先回りして用意してしまわないよう、お客様や体験コンテンツの提供先に喜ばれる魅力を見極める客観性を持ち合わせていることが、大切だと考えているからです。
事業者は、思考も姿勢も想像以上に柔軟です。製品やサービス、地域のストーリーにマッチングの可能性があるか無いかを推測し、紹介先を狭めてしまうのはもったいないこと。出会いによって、どんな化学反応が起こるかわからないのがビジネスですから。兵庫県や小田垣氏には、良質な“化学反応”が期待できるマッチングをコーディネートいただき、広い受け皿としての場を提供していただいたと感謝しています。
深大な兵庫県のパワーをギフトに換えて全国へ!
このたびの視察で実感したのは、兵庫県の“深さ”と“広さ”でした。
深さとは、兵庫五国と呼ばれ、様々な個性を誇る5つの地域それぞれに文化的背景があること。文化に根差した、その土地ならではのサービスやプロダクツ、体験コンテンツを生み出す可能性の深さを実感しました。
一方、広さとは、2つの海――日本海と瀬戸内海――に加えて淡路島もあるという、面積的にも距離的にも広大なことです。重要なのは、この広い県内のどんなコミュニティで情報が回っているのか、どういう経済圏でビジネスが動いているのかだと思います。
アクセスが良く情報も集まりやすい神戸市は、京阪神の経済圏として注目されがちですが、兵庫県として眺めると、瀬戸内の経済圏としても機能しています。瀬戸内エリアは岡山県にも隣接していますし、淡路島があることで四国との情報交換もしやすく、交通アクセスも整っています。
また、日本海に面する県北部も、鳥取県や京都府までつながる山陰海岸ジオパーク(*)を抱えるエリアとして、とても興味深い経済圏です。
深くて広い兵庫県には、様々な“化学反応”を起こすパワーがあります。想像していた以上に感じられた大きな期待値を、共に育てていけることを願っています。
*山陰海岸ジオパーク:山陰海岸国立公園を中心に、京丹後市から鳥取市までのエリア。
( 文/内橋 麻衣子 写真/林 杏衣子、ソウ・エクスペリエンス株式会社提供 )