アイデアを育て、起業を身近に!ワーク・ライフ・カオスの時代を、自由に働き自由に生きる世の中へ。

( Records )
2022.07.28

起業や副業への想いを温めている人たちは、国内に約150万人いるといわれる。しかし、行動に移せる人はわずか1割程度。135万人もの人が、思いついたアイデアをアイデアのままで終わらせてしまっているという(*)。仲間や資金集め、顧客の創出といった高いハードルを前にして、立ちすくんでしまうからだ。

そんな起業家予備軍が、気軽に一歩を踏み出すための仕組みづくりに取り組んでいるのが、株式会社アドリブワークス(以下、アドリブワークス)だ。アイデアへの共感を集め、初期の資金調達、自治体や企業との連携、法人化まで一貫して支援するサービスを提供している。兵庫県IT戦略推進事業による「IT事業所開設支援」の活用をきっかけに、神戸市を拠点として事業を拡げる代表取締役CEO山岡健人氏に、今後手にするべき新たな働き方について語っていただいた。
*2020年版中小企業白書より

株式会社アドリブワークス adlibworks inc.
https://adlibworks.co.jp/
【事業内容】Webサービス「triven(トリブン)」運営 事業開発支援 共創プロダクト製造販売
【所在地】本社:〒658-0032 兵庫県神戸市東灘区向洋町中6-9神戸ファッションマート8N-10
四国事務所:〒794-2305 愛媛県今治市伯方町木浦387-1
【連絡先】078-891-3889 【代表者】代表取締役CEO 山岡健人

山岡健人

愛媛県今治市出身。大学を卒業後、IT業界でキャリアを築き、2018年に株式会社アドリブワークスを創業。「ニッポンの働き方を、どれだけ自由にできるか」をミッションに掲げ、新しい働き方としての「起業」を身近なものにするための共創コミュニティ「triven(トリブン)」を開発。官民連携による起業支援組織の立ち上げにも取り組み、様々なプロジェクトをサポート。未来への夢を持った人たちが集い、自由な生き方を手にできる社会の実現を目指して、活動を続けている。



好きな場所で、好きな仕事ができる社会をつくりたい

オフィスには山岡さん愛用のギターが飾ってあり、遊び心のある空間に

働く時間や場所に縛られず、精神的にも経済的にも自由でいられるキャリアを築きたかったんです。30歳までにIT業界で独立することを目標に経験を積み、思い描いていた通りのキャリアを手に独立を果たした時、周りを見回すと、みんなすごくしんどそうな顔をして満員電車に乗っていました。同期の友人や当時の職場の同僚の中には、「会社を辞めたい」「実家に帰りたい」という人も多かったですね。

誰もが自分の好きな場所で、好きな仕事ができる社会になれば、日本はもっとよくなるのではないか。そう感じたことから、「地方での起業を増やす」という事業コンセプトが生まれました。独立後、「ふるさとプロデューサー育成支援事業(*)」に参加し、地方のいろいろな企業へコンサルティングに出向いたのですが、多くの地域で散見されたのが、あってしかるべき商品やサービスがないという状況でした。

例えば、私の出身地の今治市は、しまなみ海道を走るサイクリストが世界中から訪れていました。さぞ地元の商店はにぎわっているだろうと道の駅やお土産店をのぞくと、売れている気配がありません。棚に目をやると、どこにでもある箱型のお土産が並んでいるだけでした。

「自転車で旅をする人には、腰に下げたりポケットに入れられるような小さいサイズのお土産を」と提案しても、「今のままで十分」としか返ってきません。自転車が地域の活性化につながる資源であることに、誰の目も向けられていないことに驚きました。

そして、気づいたんです。地方には、地域資源の種を見つけて商品化するプレーヤーがいないだけなんだと。

「辛い思いをしながら都心で働き続けなくても、地方で仕事ができる!」

ローカル起業のポテンシャルを実感した体験でした。

これからは、生活と仕事が一体化し、趣味を生かして働くワーク・ライフ・カオスの時代になると思います。本業を持ちながら、好きな写真撮影も仕事にしているとか、趣味で描いているイラストを販売しているなど、サブプロジェクトに参加しながら収入の柱をいくつも持つような働き方が、数年後には当たり前の世界になっていると思うんです。自分の得意なスキルを活かして仕事に参加する、プロジェクト型の社会が生まれようとしています。

そんな新しい働き方には、いろいろなことにチャレンジする準備期間が必要です。そのためのトライ&エラーを気軽に行える環境として、アドリブワークスが提供しているサービスがtrivenです。

*「ふるさとプロデューサー育成支援事業」:地域の特色を活かした産品のブランド化や販路開拓の担い手となる「ふるさとプロデューサー」の育成を通じ、地域資源を活用した事業促進を目指す経済産業省・中小企業庁の支援事業。


「起業」が身近で新しい働き方になる

trivenとは、誰もが気軽に起業するため、仲間や資金、知見などを簡単に集められ、ビジネスアイデアを具現化できるプラットフォームです。アイデアの評価を気軽に世間に問うことができるため、事業化の可否を素早く見極めながら、トライ&エラーを繰り返すことができます。

事業アイデアをtrivenに提出する「チャレンジャー」と、一緒に働きたい人がスキルを提供する「サポーター」、内容に共感し独自トークンの寄付によって支援する「ファンダー」。それぞれがつながることで、アイデアが事業に育ち、起業できる環境が整う仕組みです。現在、登録会員は約3,000人、提出されたプロジェクトはのべ約300件になります(令和4年7月現在)。

trivenの特徴は、制度のオリジナリティにあります。

ひとつは、アイデアに時価をつけることで、その価値を可視化できる仕組みです。本来、アイデアやプロジェクトの価値は、事業化までの間にブラッシュアップされることで徐々に高まっているはずです。このプロジェクトは、サポーターやファンダーがどれだけ集まったかによってアイデアの時価が決まり、価値を目で確かめられるものにしています。

もうひとつは、起業にシェアリングエコノミーを取り入れていること。プロジェクトにおける資金面のリスクや責任を、最初からみんなで分散しようというものです。今までは、起業を目指す人が一人で資金を用意し、いろいろな人に業務を委託していました。しかしtrivenでは、チャレンジャーだけではなく、スキルを提供するサポーターも最初から出資します。この出資割合に応じて、プロジェクトの成功報酬を受け取る仕組みです。

資金面のリスクやプレッシャーを分かち合え、責任を持って仕事に向き合う仲間とつながれる場所であることが、trivenのオリジナリティだと思っています。

人も企業も仕事も減っていく時代に求められるのは、新しいコトを興す起業です。起業家を増やすために、圧倒的に足りていないボトムからの引き上げ支援を、私たちは担おうとしています。そのチャレンジを後押ししてくれるのが、兵庫県と神戸市です。出会いのおかげで、今のアドリブワークスがあるといっても過言ではありません。

兵庫県・神戸市が整えてくれたビジネスの基盤

2020年4月、2週間で返事をいただけるというスピード感に興味を惹かれ、「STOP COVID-19 × #Technology(*)」にエントリーしたことが、兵庫県や神戸市とつながるきっかけでした。

神戸市では、スタートアップを支援するイノベーション専門官が、スタートアップと解決したい課題のコーディネートを行っています。弊社を担当していただいている専門官もそのお一人ですが、エントリー時のオンライン面談でのフランクな対応とレスポンスの速さに驚きました。

実は、私のビジネスプランはコロナ対策のテーマに沿っておらず、採択されませんでした。しかし、専門官の方が「興味深いプランなので、何かの事業とつなぐことができないか考えてみます」と言ってくださり、本当にすぐ連絡をくださったんです。

そこで紹介されたのが、神戸市内における自助・共助の課題解決プログラムでした。ワークショップを通じて市民の方々が出し合ったアイデアの掲載や仲間の募集に、trivenを使っていただきました。これをきっかけに、「ANCHOR KOBE(アンカー神戸)(*)」での正式採用につながることになりました。

その後、勧めていただいたのがIT事業所開設支援事業。2021年3月に申請すると4月には採択が決まり、神戸市に本格的に腰を据えることになりました。家賃補助のおかげで、コワーキングスペースを出て自分たちの事務所を持つことができ、人件費補助でCTOを雇用することもできました。こうしてビジネスの基盤を整えることができたおかげで、仕事も拡がっていったんです。

*「STOP COVID-19 × #Technology」:神戸市が、新型コロナウイルス発生に伴う市民生活及び市役所内の業務における新たな課題の解決を目指し、全国のスタートアップから新型コロナウイルス対策となり得るテクノロジーや提案を募集した事業
*「ANCHOR KOBE(アンカー神戸)」:スタートアップや医療産業都市進出企業、神戸の地場ものづくり企業、大学など、様々な知が集結・交流し、新たな価値を創発するため、神戸市が開設したビジネススクエア

自治体・企業・教育機関、地域も立場も超えた連携プロジェクトが始動!

例えば、2021年5月には神戸市と神戸電鉄との連携事業のマッチングプラットフォームにtrivenが採用され、また8月にはワーケーションを通じた地域課題解決の実証プロジェクトで、養父市と協定を結ぶことができました。さらに11月には、地域住民が飲食店の商品開発から販売までを行う厚木市と小田急電鉄との連携事業にtrivenを活用していただきました。

いずれの事業においても、trivenならではのコンセプトや仕組みに「こういうツールを求めていた」と高い評価をいただき、いっそう可能性を感じることができています。

こうした様々な事業を経て、2022年6月に立ち上がったのが、官民連携の創業支援組織「NOROSI Startup HUB(ノロシ・スタートアップ・ハブ)」です。

まず2021年8月から12月まで、神戸市と渋谷区によって行われた実証実験からスタートしました。神戸と渋谷という地域の壁を越えて新しい働き方を求める人たちが集い、チームをつくってプロジェクトを立ち上げるというもの。両地域から約150名の参加者が集い、社会課題に挑んだビジネスアイデアが34件誕生しました。

中でも印象深いのは、生態系に影響を与えない波力による発電事業「アヒル発電」のプロジェクトを立ち上げた中山繁生さん。「事業構想から、7年越しでプロトタイプの製作や資金調達の動きが生まれたのは、trivenのおかげ」と言ってもらえたことが、本当にうれしかったですね。

2022年7月現在は、7自治体、16法人、協力機関1大学が参画会員として加わってくださっています。すでに今も、事業承継の課題解決を目指す自治体や、ワーケーション事業に挑戦する自治体など、様々なプロジェクトが稼働中。様々な地域課題の解決を目指す取組を、もっと増やしていきたいと思っています。


自由な働き方で、あふれる日本を目指して

弊社の今後の目標は、3つあります。

一つ目は、現在30代のキャリア層が中心になっている利用者の年齢を引き下げること。学校教育として起業を身近に感じる仕組みづくりを考えています。そのファーストステップとして、芦屋市、みなと銀行、甲南大学との連携による児童向け金融教育に、弊社も連携先の事業者として参加します。

二つ目は、海外展開です。ローカルプロジェクトを増やす起業支援において、少子高齢化や地方の過疎化を食い止めることは、どこの国でも最大のテーマ。国内で成果を収めれば、海外での展開にもつないでいけるはずです。

そして三つ目が、出口の強化です。trivenを通じて生まれた商品やサービスを、販売まで行いたいと思っています。trivenの中にECサイトを設置するなど、どんどん挑戦していこうと思っているところです。

起業をかなえた先では、アクセラレータープログラムやクラウドファンディングなどの支援がたくさんあります。私たちは、そこに到達するまでの一番長く、孤独な時間をサポートしたいんです。

「trivenのおかげで仲間を集め、アイデアを事業化し、独立や法人化ができた。」

そう言って一歩踏み出す起業家を一人でも多く増やし、自由な働き方であふれる日本をつくっていきます。

エントリーに価値がある「IT戦略推進事業 IT事業所開設支援」

一番お勧めしたいポイントは、この制度への申請が、自社の存在を自治体に知ってもらうきっかけになること。地域で事業を始めたいなら、まずはエントリーしてください。兵庫県・神戸市の専門官の方々はフランクでフットワークが軽く、レスポンスも速い。自分がどんな事業をしているのかを知ってもらうことで、他の自治体にも広げていただくことができます。

もう一つは、開業時の資金計画を学ぶ機会になること。この補助制度でいただける開業資金は、使途がある程度決まっています。開業時は何にどれだけの資金を充当するのが適切なのか、経営における妥当な資金計画を肌感覚で学ぶことができたと思います。

(文/内橋 麻衣子 写真/林 杏衣子)