産業や防災の未来。兵庫県・神戸市がドローン実証実験を多様に行い、先行事例を積極的につくる理由

( Records )
2020.12.29

行政分野で初年度から14の実証実験をスタート

Drone

既に各所で“空の産業革命”とも唱われているドローンの存在。また、内閣府や経済産業省は『Society5.0』というビジョンを掲げ、経済発展と社会課題の解決を両立させるために、ロボットやAI、ビッグデータ解析などの先端技術をあらゆる産業や社会生活の中に取り入れていこうとしている。先端技術に携わる人々にとっては既になくてはならないドローンという存在だが、具体的に兵庫県・神戸市としては自治体のなかでどのような事業を実施しているのだろうか?

上平氏(以下、上平):「今から約2年前、本県の井戸知事がドローンを積極的に使っていこうということで、神戸市とも連携し、防災・観光・農業・土木など、全庁横断的に実証をやっていく方針を打ち出したことがきっかけでした。昨年度は14テーマの分野で、ドローン活用をさせていただき、全国の自治体の中でもおそらくここまでしっかりと予算をつけ、全庁横断的に展開しているのは今のところ兵庫県だけではないかと思います。有識者の方々からも注目いただき“兵庫はドローン事業、よくがんばっているね”と評価をいただけているような現状です」

<実証実験素材>
初年度に実施した14テーマは以下の通り。

① 防災訓練等での活用
② 県庁周辺地域の現況把握調査
③ 観光用動画・静止画の撮影
④ 森林植生等の資源量調査
⑤ レベル3飛行による森林資源量調査の一部実施
⑥ 鳥獣対策
⑦ 土砂災害箇所抽出調査
⑧ 治山施設・周辺地形等の健全度調査
⑨ 森林病害虫被害森林調査
⑩ 冬期通行不能区間の道路積雪状況・道路施設の調査
⑪ 河川現況調査
⑫ 土砂災害対策基礎調査・倒木リスク調査
⑬ 海岸防護施設の健全度調査
⑭ ニホンジカの生息状況調査

「このように初年度は、主に行政がやる仕事をドローンに置き換えてみることにチャレンジしました。令和2年度は、

① 災害時を想定した防災訓練における、複数箇所での同時飛行によるリアルタイム中継及び災害避難広報の実施
② 海岸防護施設の健全度調査
③ AI技術を活用した水道施設の維持管理に関する画像取得方法の調査
④ 指定文化財管理のための総合的調査
⑤鳥獣対策のための生息状況等調査

という5つの分野。防災やテトラポッドの調査、水道施設インフラ点検、文化財の調査などを新たにチャレンジしている、というところです」

ここまでは『行政分野』という括りだが、令和2年度はさらに『官民連携分野』も設定し、広く実証実験のテーマを募集。公募により令和2年7月からは4つの分野で採択された事業(①ドローンによるリモートセンシングを活用した新しい営農指導手法の確立 ②長期間滞空電動固定翼UAVによる大気汚染モニタリング ③水中ドローンを活用した人口魚礁の水産資源調査 ④AIを活用した玉葱べと病の感染株特定 )もスタートした。
行政にとどまらず、民間での課題もドローンに置き換えてみようというこの取り組みでは、農業・大気汚染のモニタリングや水中ドローンを使っての魚類の調査、といったことが採択され、事業費が当てられている。

上平:「官民連携分野での事業の進め方としては兵庫県内のフィールドを使って実証をしたい事業者さんを募集し採択、そこに実証の予算をお渡ししてやっていただくという流れです。令和2年度は、全農兵庫さん、地元のJAさん、そして農家さんがタッグを組む形で進めていくものや、県内の航空機メーカーである新明和工業さんが神戸大学や日本気象さんとタッグを組み大気汚染状況をモニタリングしデータを収集しているもの、空のイメージが強いドローンのなかでも水中分野で挑戦している企業による調査や、農作物の病気をAIで調査可能にするための教師データを作る事業を採択させていただきました。たとえば、今回実施するドローンを活用した大気汚染モニタリング調査については、いま現在は、測定器を屋上に置いておくなどして定点での観測はできていますが、3次元の大気中の流れなどはデータ観測をできておらず、測定機をドローンに積んで測定が可能になることでもう少し詳細なことがわかるようになるのでは、という見込みがあります。将来的に、気象予報と同時に大気汚染予報情報も流すようなことが可能になるのでは、と期待しています。」

果敢に挑んだ全庁横断での取り組み

これら多数の実証実験をしてみても、実装まで行くかどうかはまた別の話であり、“とりあえずやってみることのできる状況”をまずは行政側が生み出すことが大事、と上平さんは話す。そもそもなぜ兵庫県ではこのような全庁的ドローンの取り組みへと踏み切るに至ったのか?

上平:「最初にお話ししたとおり、本県の井戸知事が全庁的にやっていく方針を打ち出し、各部局のトップに指示を出したことが大きな動きを作るに至ったきっかけです。さらにさかのぼりますと、その動きに至ったのは、兵庫県と姉妹都市である広東省との提携35周年ということで、深圳へと知事が実際に行ったことがきっかけです。かつて姉妹都市提携を結んだ1980年代初頭頃のGDPを比較すると、当時は兵庫県のほうが上回っていました。しかしそこから35年経ってのGDPは、兵庫県21兆円のところ、広東省は130兆円にまで成長している、という事実にかなり衝撃と刺激を受けたそう。現在のドローントップメーカーのDJIや、Wechatで有名なテンセントなども視察したなかで、ゆくゆくは兵庫県がそういった企業の育つ地になれば、というビジョンに繋がったこと、そして当然ドローンは今後の世界において明らかに大きな軸であるし、ということで今回の事業実施に至っています」

現在、積極的にドローン事業に取り組もうとしている日本の自治体は兵庫県のみならずなくいくつか存在している。具体的には、大分県、神奈川県、千葉市などは既に実証実験を推進しており、福島県南相馬市に完成したロボットテストフィールドはドローンだけでない、より広義のロボット事業拠点として注目を浴びてもいる。上平さんはそれらの自治体とも連携していくべく奔走中であり、そういったなかでも兵庫県の実証実験の分野の多様さは注目されているようだ。

上平:「他の自治体の皆様大分県さんと意見交換をしたなかでも『なぜここまでたくさんのテーマが各部局から挙がってきて、部局を超えて連携しながら実施できているのですか?』ということは聞かれました。この全庁横断的にやる、というのは自治体職員の方なら想像するに難しくないであろう、結構しんどいことなのですけども。どうにかそこを越えて実現できたからこそ、ありがたいことに初年度の取組について各方面から評価をいただけている部分は大きいのだろうなと思っています」

言うは易く行うは難し、とされる大きな自治体の“全庁横断的に”の実行の肝はどこにあったのだろうか?

上平:「県庁内でも主に、防災・農林・土木系の担当部局とともにやっていますが、まずはまとめてうちの課で予算を確保し、『この予算を使ってできますよ?契約事務もこちらで担当しますし、やってみませんか?』と各部局に声をかけていく形で、事業自体を組み上げていきました。各部局さんもドローンでのデータ収集など興味があり使ってみたかったというところは多いようで、実証実験のテーマ・課題はわりとどんどん出てきましたね。ただ、これまでに使える予算のつけよう・取りようが無かった、というのはシンプルで大きなネックだったわけですね。ひとつひとつへの予算の規模感が大きめなのも、担当部局はもちろん、公募いただく企業や研究機関にも兵庫の本気度を感じていただけている部分かもしれません」

兵庫県は神戸のような港湾エリアはもちろん山間部や淡路島などもあり、県として全庁一丸となって取り組み始めることによりこういった多様なフィールドが一気にドローン実証実験の場となりうる。未だ許可を取らないと飛ばせる場所がかなり限られているドローンという存在にとって、県の持つフィールドが広く使えるようになるのは大きな魅力のひとつといえるようだ。

上平:「また、初年度の結果をもって有識者の先生方にもご意見を伺いつつ、調査会社へも成果検証を委託し、個別の事業ごとにコスト面や精度面など項目別に検証し、社会実装に向け、実際に使えそうかどうかの評価をしているんです。やってみたことで、ドローンの使える部分と、ちょっとまだ難しい部分がよくわかってきたな、というのが各部局の担当者からの評価として出てきています。あとは、もう少しコストが下がれば実装できるな、というケースも結構あったりします」

橋梁や河川の現況、防災のためのインフラ点検などは、現状だと足場を組んで目視で実施するケースが多く、その際のコストと比較しはじめるとドローンのほうが安いというケースも大いにありそう、とのことだ。

国の規制緩和や法整備の動きを見据え、地方自治体として先行事例をつくる意味

将来的に、兵庫県が思い描くドローンにまつわる状況とはどのようなものか?上平さん曰く、兵庫県の空域、だけでなく日本中の空域ではドローンが自由に飛び交っているという状況をここ兵庫から生み出したい、とのこと。そのビジョンの実現までのマイルストーンを考えると、現在はどのくらいの地点にいると言えるのだろうか。

上平:「現在だとやはり行政がドローンを使用するケースとして想像していただきやすくかつ取り組むべき優先順位も高いのが防災の分野かと思います。が、実際に災害が起こった際にヘリコプター等の有人機とドローンの運用調整をしながら、ドローンを活用していくことについては、システム・運用ルールともにこれからの課題になっています。なのでそのあたり、実装に向けてやるにはドローンをどんな場面でどう運用するかを、災害対応マニュアルの中にも入れ込んでいかないと使えない。そういう検証の必要性も感じているところです。国にしても法を緩和するためにはまず機体の技術的なレベルを上げる、だとか、操縦者の操縦技術レベルをどう担保するか、だとか、そういう議論がいま盛んにされていて、その制度が整ってくると、ドローンを取り巻く状況は一気に変わってくるのではないかなと思います。2022年度に『レベル4飛行』と呼ばれる“有人地帯での目視外飛行目視外・第三者上空飛行”を実現させよう、というのが国の動きなので、その時までにきっちり制度を整えていこう、ということにはなってきています」

現在は、2022年度のレベル4実現に向けた工程を具体化させ、法制度検討と技術開発の連携強化に向けて国が動いているところ、という段階。ここが整ってくるとドローンを取り巻く環境は一気に状況は変わってくることだろう

上平さん:「公共測量だけでなく、国が進めるi-Constructionに係る測量作業においても適用することを前提につくられた、「UAV搭載型レーザスキャナを用いた公共測量マニュアル(案)」が令和2年3月31日に改正されましたが、国としてもドローンを積極的に活用いただき、自治体の背中を押してくれると、社会実装がものすごく広がるはずです。今は目視による調査や実際に調査員が叩いての調査をドローンに置き換えてもいいということになってくれば、ものすごく普及すると思います。先の話の繰り返しにもなりますが、兵庫県としても、全国の自治体さんの参考となるような情報提供のための素材が既にたくさんありますし、兵庫の調査結果が、国の制度を考える際の参考になればとも思っているんです」

実際的に、市民ひとりひとりの暮らしや命に関わる情報技術活用に向けて、今後も動いていくことになるであろう兵庫県。3年目やさらなる先に向けて上平さんの持っている課題やビジョンを最後に伺った。

上平:「兵庫県はものづくり県として製造業も盛んで、技術力のある企業さんもとても多いので、県産のドローンメーカーが出てきて大きくなってくれたらいいなあとも思います。また、ドローンというのは機体を製造するだけでなく、取ったデータをどう使うかが最も大事なところでもあるので、データを分析する企業や研究機関にどんどん参画いただき、そこからさらに何か企画や課題出しをしてくれる企業なども増えればいいなと希望を持っています。そういった基盤ができていけば、あとは民間にお任せしていきますので!まずはこの3年間でその最初の立ち上げを県として取り組みたいところです。令和2年度の公募も、9つの事業に対してのべでいうと40〜50社近くご応募いただいてきていて手応えは感じつつありますが、今まだ兵庫県がこういうことをやっている、ということ自体が知られていない部分もある。また来年度も事業募集を行えるように予算要求中です。もしも来年度にむけて実証したいことがある企業さんがいらっしゃればご相談もください。というのも、既にどこでもやっているものをそのまま実証するだけだと公募で通らない可能性がありますので、社会実装の可能性を高め、事業内容の独自性を高めるためのブラッシュアップも県としてご一緒させていただいたりしているので。
と、こういった形で様々な方面のPRも力を入れていかねばな、と思っています」

実証実験のための事業内容からともにつくっていく兵庫県の担当者。まだどこの自治体もやっていないが是非ドローン技術を用いて実験してみたい内容がある、という方は積極的に問い合わせしてみてはいかがでしょうか。
上平さん、今回はありがとうございました。