海事産業のデジタル化を支援!海の街・神戸を拠点に産学官連携で事業を加速させるMarineSL

( Records )
2023.09.19

株式会社MarineSLは、海運業、造船業、舶用工業を主として構成されている海事クラスターの課題解決に特化した兵庫県神戸市にある2022年2月設立のスタートアップ企業だ。現在は船舶航行情報を利用した舶用工業メーカー向けの船舶の部品需要予測&営業支援システム「Si-Trax」の開発・提供等を行っている。

そんなMarineSLは、2022年3月に「IT戦略推進事業(IT事業所開設支援)」(現 「兵庫版シビックテック推進事業(社会課題解決型IT事業所開設支援)」)の補助対象として事業計画が認定され、同年6月に札幌にあった本店を神戸に移転した。同社代表取締役の福島健太さんと取締役の志野安樹さんに、補助金の事業計画認定・交付が決定し、神戸に事業所を開設してからの現状について話を伺った。

株式会社MarineSL
2020年10月に親会社が船舶エンジンメーカー向けにSi-Trax事業のPoCを開始。2021年12月には関連特許を出願し、2022年2月に法人として株式会社MarineSLを設立。2022年6月に神戸市より「スタートアップ補助制度」認定を受け、本社を札幌から神戸に移転した。
「デジタルなカルチャーを共に創る」をミッションに掲げ、各ニッチ課題に直面している海事クラスターの既存企業と共創しながら、次々とデジタル領域のサービスを生み出すことを目指している。

事業内容
• 舶用機器メーカー向け部品需要予測&営業支援システム「Si-Trax(シートラックス)」の開発・提供
• 舶用関連部品データ連携システム「Si-Order(仮)」の開発・提供
• 上記に付随・関連する海事関連事業支援(DX推進、データ分析、オープンイノベーション等)
所在地 兵庫県神戶市中央区江戸町104江戸町104ビル502
設立 2022年(令和4年) 2月1日
連絡先 https://marine-sl.co.jp/contact
代表者 福島健太(創業者・代表取締役)、志野安樹(共同創業者・取締役)

福島健太
京都大学農学部卒。都市銀行、SE、特別研究員等を経て、欧州にてスタートアップを起業。ブロックチェーン関連のR&Dに従事し、同社を上場企業に売却。その後、売却先で新規事業立ち上げ・業界リサーチ等を担当。2022年に再度起業。北海道大学大学院博士後期課程在学中。

志野安樹
同志社大学理工学部卒。ダイハツディーゼル技術企画部門(排ガス処理装置の開発など技術部門に所属)を経て、コマツエンジン開発部門へ転職。産業用ディーゼルエンジンの制御開発経験など、船舶関連に多様な知見を保有。MarineSLでは、Si-Traxなどプロダクトの開発を主導。


デジタルの力で船舶部品メーカーの競争力強化を実現

福島:弊社は海事産業のデジタル化を推進するスタートアップです。現在は、船舶航行情報を利用した舶用工業メーカー向けの船舶の部品需要予測&営業支援システム「Si-Trax」、船舶関連部品データ連携システム「Si-Order」、これらの顧客に対するデータ分析やDXの支援等を事業として行っています。

志野:Si-Traxは船の累計航行時間をベースに独自のアルゴリズムを使用することにより部品交換時期を予測し、その情報を部品メーカーに提供します。部品メーカーは部品交換時期の予測情報を元にして部品の生産や納入を行うことができるため、部品の販管費の削減が可能になります。また、顧客評価機能によりイミテーション部品の使用割合が高い顧客を特定することができ、純正部品の営業効率改善も期待できます。

船舶業界ではサードパーティーによるイミテーション部品の利用率が半数程度を占めると言われており、純正品に競争力を持たせることが難しいのですが、部品交換時期の予測を通じて適切なタイミングで部品交換を提案し、販管費の削減や純正部品のシェア拡大を実現することで、舶用機器メーカーの競争力向上を支援できると考えています。


ニーズに合った補助金をきっかけに、縁のあった関西・神戸に本店を移転

福島:志野が海事産業出身だったこともあり、業界が抱える様々な課題をITの力で解決できるのではないかという話を以前からしていて、2020年頃から事業として成立するのか検討を進めていました。検討を始めたときはコロナ禍だったので、私は北海道、志野は関西、とメンバー4人が皆バラバラの地域でフルリモートで働いていました。事業の検討を進める中で取引先が決まったこともあり、法人を設立することにしました。私が代表を務めることが決まっていたため、いったんは私が手続きのしやすい札幌に本店を構えましたが、私が神戸出身であることなど、関西に縁があるメンバーが多かったため、関西エリアに本店を移転したいという話が以前から出ていました。

そこで、京都・大阪・奈良・和歌山など関西エリアでスタートアップ向けの補助金を探して内容を比較した結果、助成の内容や海事クラスターに属する会社数などから、最終的に神戸市の補助金を申請する流れとなり、無事に採択いただくことができました。いまは神戸市のコワーキングスペースを借りて、そこに本店を登記しています。弊社が自社サービスを展開していく上でAWSなどクラウドサービスにかかる費用が大きくなることが分かっていたので、今回の補助金ではその費用も補助対象となるのも魅力的でした(編集部注:当該補助金では、通信回線使用料として年額60万円を上限に補助が行われ、クラウドサービスの使用料等も含まれる)。

志野:補助金の交付申請に関しても大変スムーズにやり取りをしていただきました。国の補助金だと提出する資料がすごく多かったり確認手続きに時間がかかったりすることが多いのですが、今回の補助金は県の担当の方に丁寧にスピーディーに対応いただき、我々も足りないところも多々あったと思いますが、大変助かりました。

福島:補助期間の1年目が終わったところなのですが、そちらもスピード感を持って入金いただきました。キャッシュフローの面で大変助かりました。

六甲山のシェアオフィス利用も無料。神戸市からの様々な支援内容

ROKKONOMADでの仕事風景

福島:補助金の採択に関するプレスリリースを神戸市から出していただいたことがきっかけで海事クラスターの業界紙である海事プレスに取り上げられ、そこから多くの会社に問い合わせをいただきました。

また、神戸は海事産業が盛んな都市ということもあって、移転をきっかけに様々な企業と繋がりができました。船主や管理会社の本社機能は東京や四国のほうに集約されていますが、造船所や商社、メーカーなどその他の業種に関しては神戸市や兵庫県内に多く立地している印象があります。神戸大学の海事科学部もありますし、海事クラスターのプレイヤーが漏れなく集まっている街だなと感じています。

志野:六甲山の上に「ROKKONOMAD」というシェアオフィスがあるんですが、補助金の採択者は年度末までお試しで使えるということを案内いただき、週に1回くらい使っています。場所が非常に景色の良いところにあって、鳥のさえずりが聞こえるような場所で外の情報をシャットアウトしたいときに重宝しています。ロープウェーに乗ったり神戸市内から行くのに少し時間はかかるのですが、移動も含め良い気分転換になっています。

あと、国内出張だと札幌や東京に行く機会が多いのですが、神戸空港から飛行機で一本で行けるので助かります。あと、四国の今治は海事産業が盛んな都市で出張する機会が多いのですが、四国に行くのも便利です。

海外に行く際は、神戸空港から関西国際空港に出ている高速船が本当に便利ですね。今年も現地視察のためにインドやシンガポールに行ったのですが、家から1時間くらいで神戸空港から関空に行ってそのまますぐに海外に行けるのがとても便利です。皆さんが思ってるより神戸は交通の便が良いと思いますね。

船とITの両方に強い人材の創出に向けて

福島:現状、船とITの両方に詳しい人ってほとんどいないんです。なので、船に詳しい人にITを教えるか、ITに詳しい人に船のことを教えるか、このどちらかが必要になると考えています。我々も志野以外は元々船に詳しかったわけではなく、ITやデータ、ビジネスまわりに強いメンバーで構成されていたので、現場や顧客先で議論を重ねながら、業界に関する知見を高めていきました。

そういう点では神戸は船に詳しい人材がたくさんいて、その人たちにITに強くなってもらえればよい。その方法は色々あると思うのですが、今は具体的に2つの方向性を考えています。

1つめは神戸大学の海事科学部の学生や教員と繋がりを作る形です。4月から学生1名にインターンに来てもらって主に海外の海事産業の企業やITサービスに関する調査をしてもらっているのですが、この業界特有の慣習や用語などを説明しなくて済むので助かっています。弊社側の戦力として貢献してもらっているというのはもちろんあるのですが、本人も就職する前の勉強になると言ってくれていますし、神戸大学もインターンの受け入れ実績になるということで喜んでくれているようです。

2つめは海事クラスターの業務支援先から人材を出向させてもらう形です。近年は各社IT関連部署を新しく立ち上げる動きが盛んであるものの、IT出身者が部内にほとんど存在しない状態であるため、まずは人材交流から始めて、次に我々の業務の一部を手伝ってもらう、最終的には弊社に出向してもらい、出向元の企業と共同でプロダクト開発を行う形にできないかなと考えています。新しく人を採用するというよりも、既存の業界の方を弊社で受け入れてITに強い人材を増やしていく形が両者にとって理想的ではないかと思っています。

■MarineSLが見据える今後の展望

志野:神戸の会社との取引も増えています。神戸に根ざした会社になっていければと思います。

福島:海事クラスターには似たような課題を抱えている企業が多く存在するのですが、各社の連携がうまく取れておらず、競争する領域と協力する領域の分離がうまくできていないと感じています。複数の会社が同じ課題に直面したときに、各会社でゼロから独自で解決手段を模索しているような状況です。課題が近しいということは当然企業として提供する付加価値も近い領域にあるということなので、全ての情報をフラットに交換することは難しいと思うのですが、社内の業務効率化やデジタル化など、直接付加価値向上に関わらない業界共通の課題に関しては、近い業種同士が情報交換し、共通の解決策を模索することで、そのソリューションの導入コストは劇的に下がるのではないかと感じています。

解決手段の共有についてですが、会社の系列や資本関係などの縛りがあると参加できる企業と参加できない企業が出てきてしまいます。そこで、神戸市にいつか提案に行ければと思っているのですが、どこの企業群にも属さない神戸市や兵庫県などの自治体が主導する形で、海事産業の企業同士の課題共有や解決策に関する協業を推進できないかと考えています。

兵庫県/兵庫版シビックテック推進事業 (hyogo.lg.jp)