神戸発テレプレゼンスアバターロボットメーカーとして企業ブランドを構築。 人に寄り添うコミュニケーションツールの未来形に挑む!

( Records )
2021.11.30

創業時から変わらないのは「iPresenceは、ロボットを売る企業ではない」という想い。代表を務めるクリストファーズ クリスフランシスさんが、「主役はあくまでも人。人と人がコミュニケーションをとるためのツールとして、ロボットがいる。」と話すように、iPresenceが開発するのは、入院治療と学びを両立させたい子どもたちや、見守りが必要な介護施設の高齢者に向けた、人への温かさを感じさせるロボットだ。中でも2021年8月には、新型コロナウイルスの影響により離れ離れになった家族をつなぐテレプレゼンスロボット(以下テレロボ)(*)「動く電話テレピー(Telepii」」を発表。ロボットメーカーiPresenceとして新たな一歩を踏み出した。「ロボットを、世の中のニーズに合わせたソリューションとして開発することに価値がある」と語るクリスフランシスさんを支えた、兵庫県のIT戦略推進事業補助制度の活用について話をうかがった。

*テレプレゼンスロボット:遠隔コミュニケーションとロボット技術を組み合わせることで、遠隔地にいながら主体性を持って歩き回ったり行動したりできる、新たなコミュニケーションツール

生まれ育った神戸のまちで夢がかなった!

※動く電話テレピー

「ロボットのメーカーになりたい。」

「コミュニケーション×ロボティクス」というコンセプトを掲げ、一人で会社を立ち上げたのは8年前のことです。メーカーになりたいと言いながら、機械設計もできない、特許の取り方もわからないというところからのスタートでした。まずはできることから取り組もうと、ロボットを仕入れて販売することから始めました。

そんなiPresenceが、ロボットメーカーとして量産まで可能にしたファーストプロダクトが「動く電話テレピー(Telepii)(*)」(以下テレピー)です。5~6年前から、スマートフォン版のテレロボをつくりたいという構想を温めていました。しかし、人型ヒューマノイドロボットが現れ、弊社も自走式ロボットを取り扱っているような状況で、ちょっとシンプル過ぎるのではないかと躊躇していた中、新型コロナウイルスが発生。イギリスにいる家族に会えなくなってしまったことが、開発の後押しになりました。

スマートフォンでビデオチャットをしても、コップに立てかけられたスマートフォン越しでは、食事中の子どもたちの食器は見えても顔が見えません。テレピーなら、子どもたちが映るスマートフォンを、自分が見たい方向へ遠隔操作で360度自由に動かすことができます。それだけのシンプルな動きでも、相手の生活空間に自分がいるように感じさせてくれるので、今この時代だからこそ十分価値があると思ったのです。2020年12月に挑戦したクラウドファンディングでは、目標に対して300%を超える達成率を実現し、メーカーとして事業を進めることができました。

今回のIT戦略推進事業補助制度により、生まれ育った神戸のまちで世の中に通用するロボットメーカーをつくりたいという夢がかなったのです。実はこの補助制度を利用するきっかけになったロボット開発事業も、神戸市とのつながりから生まれたものでした。

【iPresence合同会社】

「リモートプレゼンス(遠く離れた場所に自分を存在させること)」という概念に出会ったことで、ロボット技術の導入による遠隔コミュケーションの未来形を感じ、コミュニケーションの新しい体験を提供すべく2014年5月創業。テレプレゼンスロボットの輸入販売に始まり、サービス化、アプリケーション開発、システム構築と事業を拡大。2018年、兵庫県のIT戦略推進事業補助制度を利用し、神戸市内に事業所を開設。医療、教育分野をはじめ、あらゆるフィールドにおける遠隔コミュニケーションの課題解決に向け、様々なソリューション開発に取り組んでいる。2021年、念願だった独自開発ロボットの生産販売がスタート。ロボットメーカーとして新たな展開を迎えている。

iPresence合同会社/iPresence Ltd.
URL https://ipresence.jp

事業内容:先端技術機器、アバターロボット機器、通信用機器、ソフトウェアおよびそれら
     関連サービス提供
所在地:神戸市東灘区向洋町中6-9 神戸ファッションマート4F 
連絡先:info@ipresence.jp 代表者   クリストファーズ クリスフランシス

いつでも誰でも利用できる、コミュニケーションツールとしてのロボット事業

※ 自動運転見回りテレロボ「CARE-JIRO(ケアジロー)」

iPresence独自のロボット開発のスタートは、2017年6月に神戸医療産業都市から提案された「神戸介護・リハビリロボット実用化開発費補助金」により、介護施設向け自動運転見回りテレロボ「CARE-JIRO(ケアジロー)」を生み出したことでした。ビデオチャットをしながら歩き回る自走式ロボットのプロトタイプです。介護業界の人材不足により、夜間の定期的な巡回や緊急時の迅速な対応ができない事業所が多いという問題を解決するために開発しました。人に代わって夜間の介護施設の廊下を巡回したり、日中は家族がアクセスすることで介護施設にいる利用者の方々と会話をすることができます。

さらに、アプリケーション開発とサービス提供においても、事業フィールドが拡大しています。AI搭載の移動型テレロボ「temi(テミ)」を結婚式や展示会の会場に配置し、その場に集まれない人々がロボットを介して会場内を歩き回ることができる「iTOUR®︎」というサービスです。

例えば、2019年10月に開かれた京都の大学の100周年イベントでは、タイ、シンガポール、マレーシア、中国、ベトナムなど世界中に散らばっている卒業生たちが、大学のTシャツを着たテレロボを介してイベントに参加。そこにいるはずのない人が、まるでそこにいるかのようにおしゃべりをしたり、記念写真に収まったりしたことで、大変喜んでいただきました。

さらに、入院などで学校に通えない子どもたちへ、アバターロボットを介して学習機会や友人とのコミュニケーションの場を提供する「テレロボ学校参加」という独自のアプリケーションを活用したサービスも実現しました。ある大学病院に入院中の小児がんの高校生は、「タブレットで受ける授業は、完全に受け身になってしまっていました。自分が主体となって好きな場所を歩き回り、友だちと交流できることがうれしくて、毎日“テレロボ”で学校に行っています」と喜ばれています。

こうした事業を拡げることができた要因の一つは、兵庫県や神戸市のバックアップを受けている企業だと世の中に知られるきっかけになり、企業や自治体との連携をスムーズにしてくれた補助制度の存在だと思っています。

兵庫県・神戸市とのつながりが育んだ、企業・自治体とのパートナーシップ

今、「見守り+コミュニケーション」というコンセプトのもと、企業と共同開発を進めている事業があります。ICTを活用した子どもと高齢者の見守り事業で、まちなかの防犯カメラ、電車、テレピーの連携により、屋内外での見守りサービスの実現と、人と人のつながりの活性化を目指そうというものです。

2021年に神戸市の「Be Smart KOBE」プロジェクト(*)に阪急阪神ホールディングスグループの阪神ケーブルエンジニアリング株式会社等と共同で応募し、実証事業の実施候補事業者に選定されたのですが、弊社が兵庫県や神戸市を通じて様々な事業に携わってきていることも、一つの実績として役立っていると感じます。

さらに、様々な地域での取り組みも始まっています。設計・デザインは神戸市で行っているテレピーですが、製造を担当しているのは「一緒にものづくりをしよう」と手を挙げてくれた福島県の企業です。その福島県の製造会社、福島県川俣町の自治体、iPresenceで 3者協定を結び、テレピーによる見守り事業の実証実験もスタートしています。

川俣町は、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故により、放射性物質の放出・拡散による危険を回避するため避難指示が発出されたまちです。避難指示が解除されても家族が離れ離れになっている人たちに向け、「離れた家族とのコミュニケーション」をコンセプトに、テレピーを使ってもらおうとサンプルが配布されています。東日本大震災で被災した福島県と、阪神淡路大震災を経験した兵庫県・神戸市。同じ被災体験を通じて共有できた想いも、開発にあたっての背景として伝えられたらと思っています。

*「Be Smart KOBE」プロジェクト:スマートシティを目指す神戸市が、AI・IoT等の最先端技術やデータを活用して社会課題解決を目指す事業者からの提案を募集し、市内での技術実証・実装を支援するプロジェクト

未来を先取る技術力から、日常に寄り添うロボットが生まれる

※XPRIZEアバターロボット
※XPRIZE Semi-Finalを遠隔でモニタリングしている様子

今のビジネス拡張と新しいチャレンジとの相乗効果で、さらに高みを目指していきます。新しいサービスやサポート、アイデアや付加価値を、世の中に提供したいのです。

一番の目標は、テレピーのようなテレロボが全国の家庭に普及すること。ロボット掃除機の次に、一般家庭に受け入れられるのはテレピーだと思っているんです。これくらいシンプルだと、食卓やキッチンカウンターにさりげなく置くことができます。しかもこんなにシンプルなのに、大切な人とコミュニケーションまでできてしまうんです。このように、私たちが日々取り組む開発や工夫が、誰にでも毎日使えるサービスになることで、入院や介護といった必要に迫られている場面にいる人たちにとっても、当たり前に使える価値になります。私たちは弊社のサービスを、そこまで高めて拡散したいのです。

チャレンジの分野では、2019年1月にアバターロボット開発コンテスト「ANA AVATAR XPRIZE(*)」にチームを立ち上げてエントリーを行い、世界170チームが参加表明した中、セミファイナリスト37チームの一つになれました。ロボットを動かすためのインターフェイスを必要とせず、人の動きをカメラでキャプチャーして遠隔地にいるロボットを動かし、コミュニケーションができる技術です。バーチャル空間の中にいるアバターと、リアルに存在しているアバターが、どう連携して二つの世界をつなぐことができるかという課題にチャレンジしています。

こうした未来を先取るロボット開発に取り組む発想力や設計力、技術力を磨いてこそ、テレピーのようにシンプルでありながら、機能性豊かなロボットをつくることができると信じています。

*ANA AVATAR XPRIZE:ANAホールディングスをスポンサーに米国XPRIZE財団が運営する4年間のグローバル・コンペティションで、先端技術を用いた遠隔操作により、周りの環境や人々と応対ができるアバターロボットを開発

「神戸発」という企業ブランドを強みに、新たなチャレンジを!

iPresenceを立ち上げる時、「ロボットベンチャーが、なぜ東京じゃないのか」とよく聞かれましたが、「神戸だからいいんだ」と思っていました。神戸でロボット開発に取り組んでいるスタートアップが少ないからこそ、弊社のような小さな企業と一緒に取り組んでいただけたのだと思っています。これが東京だったら、弊社は多くの企業の中に埋もれていたことでしょう。

観光をはじめ、子育てから高齢者介護まで幅広い世代に向けた施設が数多くある神戸市は、実証実験を行える環境も豊富に整い、企業としてビジネスに活用できる土壌が育まれているまちです。コミュニケーションに関するニーズやソリューションは、ありとあらゆる分野に存在しますから、そういった意味でも弊社のビジネスチャンスはたくさんあると思っています。

また大阪に近く、優秀なITエンジニアが集まりやすいロケーションも魅力です。人件費をサポートしていただける補助制度のおかげで弊社にマンパワーが生まれ、その結果メーカーになる夢がかないました。ここからまた、新たな目標や夢にチャレンジすることができます。

iPresenceだけでは、企業としてここまでの成長はありませんでした。お客様がいてくださって私たちがいること、アウトソーシング先として関わってくれる人たちがいることに加え、一つひとつの事業を世に出すための様々な手続きや広報活動など、サポートしてくださる行政のおかげです。兵庫県・神戸市というまちが、ITベンチャー企業にとって成長につながる土壌であることは間違いありません。

この補助制度を活用した3年間が企業ブランドの確立に結びつき、神戸発のテレプレゼンスロボットメーカーというブランディングができたことは、私にとって何よりの喜びです。また行政にとっても、弊社のような企業が地元で育つことにより、兵庫県や神戸市でのスタートアップ起業の連鎖と新たな産業創出につながるのではないでしょうか。

これからも多くのスタートアップと共に、兵庫県・神戸市ブランドを盛り上げていきます。

手間をかけてでも、やりたいことがあるか?「IT戦略推進事業補助制度 高度IT事業所開設支援」

資金も人脈もネットワークもなく、「ロボットをつくる!」と言って回ることしかできなかったiPresenceが、IT戦略推進事業補助制度のおかげで、チームを育て、ハードウェアでもソフトウェアでも実績を生み出すことができました。

3年間の取組を通じて、弊社に対する行政の期待値も上がっているであろうことを思えば、これからどれだけ実績を上げることができるかが大切だと感じます。他企業とつながりを持つ機会や市民の皆さんとコミュニケーションを育むきっかけづくりなど、行政だからできないことと企業だからできることの垣根がなくなることにつながるのは、そこなのではないかと思っているんです。

(文/内橋 麻衣子 写真/iPresence合同会社 提供 )