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Interview 2021.3.08
場所にとらわれない働き方を見つけに、故郷へ帰ろう。

2012年の設立以来、「伝える」「知らせる」「感動させる」映像制作に取り組むのは、株式会社海空の代表取締役社長 大継康高さん。2016年、出身地である淡路島の海の上に巨大なスクリーンを浮かべた「海の映画館」で、映画と淡路島の魅力を伝える「うみぞら映画祭」を初開催。毎年多くの来場者が訪れる人気イベントに育てる一方、オリジナル映画「あったまら銭湯(2016年)」、「時代おくれ(2019年)」を製作。人々を幸せにするエンタテインメント空間を創造し続けている。

2017年には兵庫県と淡路市による「IT戦略推進事業」を利用し、淡路島にオフィスを開設。「クリエイターにこそ、地方に目を向けて欲しい」と語る大継さんが、都市と地方をつなぐ新たなワークスタイルについての想いを語る。

「伝わる」映像で創造するエンタテインメント空間

高校生の頃、映像関係の仕事に就きたいと思っていたんですが、大学では歴史の教員になろうと教員免許を取ったんです。でも、本当に教師をめざすのか悩むうち、やっぱりこの世界に飛び込んでみようと思い映像制作会社に入りましたが、そこで待っていたのは現場の仕事に追われる毎日でした。企画を考え新しいコンテンツを形にするという、本来やりたかったことに取り組む時間が欲しくて独立。2012年に株式会社海空を立ち上げました。

弊社の強みは、企画から提案ができること。制作だけを扱う制作会社が多い中、例えば「YouTubeチャンネルをつくりませんか」とメディアの提案も含めた企画を用意し、アクションを起こすことができます。また世の中のニーズが少しずつテレビ番組から離れつつある今、弊社は企業向け動画やWEB制作などいろいろなベクトルを持っているため、様々な事業に取り組むことが可能です。

そんな仕事の中で、大切にしているのは「伝わる」ことへのこだわりです。映像には、伝え方に決まりごとがありません。視聴者が何千人、何万人といる世界で、伝えたいことが一人でも多くの人に伝わるものとは何か? 自分だけの視点に凝り固まらず、誰よりも客観的に物事を観察し、時代に合わせた変化を俯瞰(ふかん*)しながら映像に向き合うことを心がけています。

俯瞰:広い視野で物事を眺めること

株式会社 海空 / UMIZORA inc.
代表取締役社長 大継康高

【事業内容】
映像制作(TV・CM・PV)、イベント企画・運営、映画製作、プロムビ(採用動画)、WEBサイトデザイン制作・運営

【所在地】
京都オフィス
 京都市下京区五条通高倉角堺町21 Jimukino-Ueda bldg.402&601
 Tel.075-744-0799
 Fax.075-744-0769
 info@umizora.jp

淡路島オフィス
 淡路市塩尾588-2
 Tel.0799-73-6310
 info@umizora-cinema.com

温めていた想いをかなえた「うみぞら映画祭」

大きな転機になったのは、淡路島で弊社が主催した映画祭でした。
映像を制作したいという気持ちと同じくらい、自らの手でイベントをつくりたいと思っていました。映像制作を仕事に選んだ原点は、人を楽しませたい、喜ばせたいという想いです。最初は映像にこだわっていましたが、人を楽しませるという意味ではイベントも変わりません。喜んでいる人や楽しんでいる人を、直接目の当たりにすることもできます。

実は会社を立ち上げる前から、休日に島に帰省して大浜海水浴場で海をボーッと眺めながら、「この海の上にスクリーンを浮かべたら面白いだろうな」とぼんやり考えていました。イベントをするならこの淡路島の海沿いで、映画祭を開催しようと決めていたんです。
こうして2015年に「海の映画館」の企画をスタートさせました。制作会社などに島内ロケの支援を行っているフィルムオフィスや映画館をはじめ、数多くの地元団体や企業などへ企画書を持ち込んでは「こんなイベントを立ち上げたいので協力してくれませんか?」とお願いに回り、2016年「うみぞら映画祭」を開催することができました。協力していただいた地元の人々に喜んでいただくためにも、淡路島の観光振興につながるイベントに育てようと毎年開催しています。

映画が結び直した地元・淡路島との絆

いずれオリジナル映画も制作したいと思っていましたが、映画祭で上映する映画を手配しているうちに、どうせならこのタイミングでつくってしまおうと思い、初めての映画製作にも取り組みました。淡路島に海の映画館をつくろうと計画した時、淡路島を舞台に、淡路島出身の俳優の方に出演していただき、オール淡路島でつくろうと決めていた映画です。

まずストーリーをつくることが大変でした。さらにストーリーが映像になった時、完成形の想像がつきません。シナリオ段階ではこれでいいと満足していても、いざお芝居に入ると内容がどんどん変わっていきます。何もかもが手探りでしかありませんでしたが、一本目の映画「あったまら銭湯」で、淡路島出身の俳優 笹野高史さんとご一緒できたのは、貴重な経験になりました。
「監督、このままではここのストーリーに納得できないのだけれど、もうちょっと変えませんか?」
笹野さんはそう言って、主人公はどのロッカーを使っているのか、タオルを持っているのは右手なのか左手なのか、銭湯での癖は何かなど、細かい設定を確認しながら一緒に取り組んでくださいました。そんなやり取りを繰り返しながらつくり上げたので思い入れがありますし、自分の足りないところや新しい発見もあった作品です。

この「あったまら銭湯」は淡路島3市で2カ月間上映し、5,000人近い方が鑑賞してくださいました。「こういう映画をつくってくれてありがとう」という声を直接受け取った時は、「映画って楽しいな」と改めて実感できました。 映画祭を続ける中で最もうれしいのは、島の若い人たちが「このイベントには関わりたい」とボランティアに参加してくれることです。「この淡路島で何かおもしろいことが、自分たちにもできるかもしれない」という意識が芽生えるきっかけになっていることを、少しずつですが感じています。私自身もこの映画祭を企画するまで、島に帰ってくる機会はほとんどありませんでした。でも映画祭をきっかけに島に戻り、いろいろなことに取り組むようになっています。

クリエイターは都会を離れよう

島外で撮影して、島内で編集する――。今は映像制作も、どこにいても仕事ができる環境になっています。淡路島を出て働いている人たちにも、このような働き方もあるのだと私の姿から気づいてもらえたらいいなと思っているんです。

映像をつくるうえで、「俯瞰的にものを見る」という考え方を大切にしているのですが、都会のオフィスビルの中だけで働いていては、そういう目線はなかなか身につきにくいのではないかと思っています。淡路島のような自然の中にいると、仕事を忘れられる時間があるんです。ずっとパソコンに向き合うのではなく、たまに外に出て海や山を眺める。それがクリエイターのようなモノを考える仕事にはいい息抜きになり、「こんなことをしたらおもしろいんじゃないか」と様々な発想が出てきます。そんな体験を積み重ねた結果、ようやく物事を俯瞰できるようになると思うんです。

例えば、弊社のおよそ8割はテレビ番組の制作が仕事でした。しかし、これからはテレビ番組が主流ではなくなる時代が来るのではないかと感じ、YouTubeなどのインターネット媒体に力を入れていこうと舵を切ったちょうどそのタイミングで、視聴者のテレビ離れが始まりました。制作に追われる忙しい日々の中にいては、世間の流れに気づけなかったこと。世の中を俯瞰することができたおかげで、弊社の今後の方向性を切り替える気付きをもらうことができたのです。

淡路島だからできること、淡路島でしかできないこと

映画祭をきっかけに、行政の方々をはじめ島内にネットワークが拡がって仕事をいただけるようになりました。観光施設をはじめ企業の社員教育用映像やPR動画、「アジア国際子ども映画祭(*)」や企業の周年事業といったイベント運営など、いろいろな仕事をさせていただいています。

淡路島は、島外から移住して起業している人がたくさんいます。例えば、サラリーマンを辞めて一から製塩に取り組む人や、東京から島へ移住し、いちご農園を新しいビジネスとして拡張させている人のように、新しいアイデアを持って来れば、あらゆるジャンルの仕事ができるのが淡路島。ここでしかできないことが、たくさんあるんです。

また映像制作に限らずものづくりに携わる仕事は、スペースがあればあるほどできることも増えていきます。この島なら工房が欲しいと思ったら、倉庫をはじめ広い空間や場所はすぐ手に入ります。データのやりとりも今後はますます時間がかからなくなりますから、いろいろな面で都会にいるより働きやすくなるはず。映像の仕事がしたい、デザインの仕事に携わりたいと思う人たちの働く場が、東京に集中していた時代から変わろうとしているのではないかと思っているんです。

兵庫県でも面白いことができること、淡路島にも「働きたい」と思える魅力があることをちゃんと発信すれば、むしろ兵庫県や淡路島で仕事がしたい思う人が増えるのではないかと期待しています。実際に、京都と淡路島を行ったり来たりする私の働き方は、周囲の人たちから興味を持たれています。 「 自分たちもこんな働き方がしてみたい」という声も聞こえてきたりするんです。

アジア国際子ども映画祭:俳優の杉良太郎氏を名誉会長に、2007年に始まった子どもたち自らの制作による3分間の映像作品コンテスト。アジア15カ国が参加している。

故郷からはじめる、新しい働き方

映像制作やイベントの企画運営に興味がある若い人たちを、淡路島で雇用したいと思っています。島を離れた後、また戻ってきたい人に向け、新しい働き方を用意できないか常に考えているんです。

例えば、映像制作だけを仕事にするには、淡路島だけでは仕事が足りないかもしれません。そこで、何かの職に就きながら映像制作の仕事をしたり、何か仕事を持ちながらデザインの仕事に取り組むような環境をつくることができないかということです。例えば、一年の半分をクリエイターとして仕事をし、半分を農業や他の仕事に取り組むことが可能であれば、淡路島での新しい雇用の形をもっとつくれるのではないか。淡路島の若者たちが都市に出て行ってしまわず、「淡路島で面白いことができる」と思って働ける環境をつくれたらと思っています。これからますます進むオンライン化をうまく利用することで、都市でしかできない仕事をしながら、地方ともつながれる映像事業に取り組みたいと思っています。

それでも、自分の仕事は都市でしかできないと思っているのなら、その凝り固まった目線を切り替えて「地方で働くってどんなことだろう」と想像し、考えることから始めて欲しいんです。
そんな目線を持つためには、まず兵庫県の出身者が故郷に戻って欲しい。戻ってきた人に対して、地元の人はとてもやさしいんです。私が淡路島に戻って映画祭を立ち上げた時や、オフィスを開設しようとした時、間違いなく地元の人たち全員が応援してくれました。自分の出身地ほど、周りの人が味方になってくれるまちはありません。若い人たちが自分の生まれ育った故郷に戻り、地元で仕事をすることを見直してくれる機会をつくれたらいいなと思っているんです。

【思考・決断・行動を加速させる「IT戦略推進事業」】

資金面のサポートのおかげで、淡路島での事務所の開設をためらうことなく行動に移すことができました。オフィスを借りる、機材を揃えるといった準備に必要な多額の費用を考えるともっと時間がかかりそうですが、決断してすぐにオフィスを開設できたのは、この制度を利用した一番のメリットでした。

もうひとつは、相談ができる場所の存在を知ることができたこと。島外から帰ってきて事業を始める時、こうした手厚いサポートを利用することで島内につながりが生まれ、様々な情報を手にしながら事業を続けられることは安心につながりました。今後は、淡路島に限らず兵庫県内全域でクリエイターを育てるための制度が、形になることを期待したいと思っています。人材の育成には準備期間が必要です。戦力として成長するまでの期間、人を育てながら雇用ができるサポート体制を、行政とうまく連携しながら用意ができたらいいなと思っています。

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(文/内橋 麻衣子 写真/株式会社海空 提供 )

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