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Interview 2020.7.21
本気になった自治体には、可能性しか生まれない。「高齢者」と「廃校」で次代のIT事業を創り出せ!

インターネットの力で社会貢献を目指し、1995年4月創業。2016年には登録小売電気事業者として、新電力事業に参入。IT事業で培った技術のバックボーンと、独創的な電力商品の開発力を背景に、ソリューション型の商品販売を手掛けている。2020年3月、兵庫県内の情報通信産業の振興と地域活性化に、共に取り組むIT企業の進出を支援する、兵庫県の「IT戦略推進事業」と養父市の「ふるさと起業誘致支援事業」の事業者として、養父市に事業所を開設した。

代表取締役である岩瀨喜保さんは「新しいことへチャレンジをするのが弊社の特徴。その一つが、高齢者がITを駆使して働く新たな仕事のカテゴリーをつくること」と語る。IT事業を地域に誘致するうえで、地域資源をどうとらえ、どう活かすのか。岩瀬さんに話をうかがった。

 

養父市 産業環境部商工観光課 柳川 武

養父市の「ふるさと起業誘致支援事業」の担当課長として、立ち上げから事業に携わる。「IT知識もノウハウも持たず、ITの専門用語さえ理解できない」と話す柳川さんが、同じく担当者の片岡智紘さんと共に、大きな熱意とフットワークの軽さでもって、およそ半年間という短期間で事業採択にこぎつけた。国家戦略特区の強みを活かした地方創生への新たな挑戦に向け、このたびのIT事業への想いを語っていただいた。

独居高齢者を孤独死から守りたい

岩瀬喜保(以下、岩瀬):「社会の役に立つインターネット事業をつくろう。」

インターネットの仕事を始めた頃から、ずっとそう思ってきました。インターネット事業の市場を成長させたのは、大半が世の中の役に立っているという実感の伴わない商品だという想いを、拭いきれなかったからです。

2016年4月の電力自由化に伴い、国民の共有財産である電気をただ運ぶだけでなく、もっと役立つ商品として活用できると考え電力免許を取得。小売電気事業者として電力商品の自社開発が可能になったことで、電気事業に20年以上取り組んできたITを掛け合わせ、新たなソリューション型事業領域を生み出しました。それが、社会問題への提起につながる電力商品として販売している「寄付電気」と「見守り電気」です。

「見守り電気」は、孤独死の防止につながる社会性の高い商品です。2020年、65歳以上の独居高齢者は、日本全国で 700万人を超える見通しだと言われています。東京都ではそうした一人暮らしの高齢者の孤独死が一日平均20件発生し、亡くなってから何週間も見つからないケースも珍しくありません。弊社ではこの状況を社会問題ととらえ、孤独死の防止や万一亡くなった後、すぐに発見できるシステムとして販売しています。

電気の使用量は、すなわち生活のリズムです。電力会社に30分ごとに通知される電気使用量をAIが分析し、見守りセンターのスタッフがいつもと違う使用量の変化をチェック。異常を発見し対応することで、本人の不安や離れて暮らす家族の心配を解消するとともに、孤独死防止につないでいます。 このたびは、この「見守り電気」を兵庫県のIT戦略推進事業として、養父市と一緒に取り組むことになりました。

株式会社アイキューフォーメーション / IQ Formation

https://iqformation.com/
https://mydenki.com/

【事業内容】
●新電力事業(登録小売電気事業者)、IoT事業

【所在地】
●東京本社:東京都目黒区上目黒三丁目6-18TYビル7F
●養父事業所:兵庫県養父市大屋町加保7番地 おおやアート村「BIG LABO」内

【連絡先】TEL 03-5494-5422

代表取締役 岩瀨喜保

IT事業者との二人三脚で、新たな地方創生へ

柳川武(以下、柳川):養父市はこれまで、製造業の企業誘致に重点を置いてきました。廃校などを活用して企業活動に取り組んでいただける企業の誘致を推進してきたのです。
しかし、世界の経済情勢が目まぐるしく変化する中、製造業の企業誘致だけでは地方創生が成り立たない時代がやってきました。
そこで養父市は、2014年に国家戦略特区に名乗りを上げ、特区という強みを生かしながら様々な事業に挑戦しています。
最近では、オンラインによる服薬指導や、自家用車を使った市民や観光客の輸送サービス(通称「やぶくる」)などがその代表事業です。さらに2019年からは、IT戦略推進事業に取り組むことになりました。

これまでは、行政サイドから発信する改革ばかりでした。しかし最終的な着地点は、企業と一緒に地域課題を見つけ出し、企業が考える事業展開で課題を解決し、地域活性化を図ること。そんな地方創生の第2フェーズを目指し、企業の皆さんと共に進んでいきたいと思っていたのです。 そんな想いから、兵庫県と共に取り組むことになりました。そして出会ったのが、岩瀬さんだったのです。

IT素人とプロフェッショナルのコラボから生まれた先進事業

柳川:IT戦略推進事業に取り組むことを決めたものの、具体的に進めるためのスキルもノウハウも全く持たず、どこに向かって走ればいいのかさえわかりませんでした。
兵庫県をはじめいろいろな方に相談する中で、2018年にIT戦略推進事業の制度を活用され、豊岡市に事業所を開設された小田垣栄司さん(株式会社ノヴィータ)から岩瀬さんをご紹介いただき、東京へ会いに行ったのが始まりです。
当時はこの事業に合った地域課題を見つけることさえできず、とにかく事業者に出会おう、相談する内容は出会ってから考えよう、そんな状態からのスタートでした。

岩瀬:実は私も、詳しい話は聞いていなかったんです。最初はなんだかわからないまま、とりあえず会いに出かけたという状況でした。小田垣さんが言っているから、いいんだろうと……(笑)。

ちょうどその頃、弊社では見守り電気事業を進めるうえで、見守りセンターを作らなきゃだめだという課題が発生していました。従来の見守り電気は、集合住宅の大家さんや住宅管理会社への販売商品で、誰も見守ってくれる人のいない個人の方の加入は、お断りせざるを得なかったんです。 

そんな時に今回の養父市でのお話をいただきました。シルバー人材センターとの連携ができそうだとわかり、じゃあ養父市で見守りセンターの事業をやってみようという話になりました。

柳川:岩瀬さんのコンセプトは、地域の元気な高齢者がスタッフになって高齢者を見守るというもの。しかも、ただ単に孤独死を発見・連絡するだけのビジネスライクなものではなく、スタッフが加入者に「元気ですか?」と声をかけ、話し相手や相談相手になるハートフルな取り組みであることに、大変魅力を感じました。

養父市の高齢者率はおよそ4割。
たくさんの元気な高齢者を地域資源として活用しながら、地域課題を解決できる。
そんな事業の概要をお聞きして、ぜひ取り組みたいという想いが強くなり、その場で市長に会っていただく日取りを決めました。
この出会った日から2か月後に市長と面談していただき、興味を持たれた市長からも前向きに進めるようにと指示が下りたことで、県にも協力いただきながら本格的に事業を進めていったんです。

岩瀬:最初は、養父市の地域課題を解決するためには何をすればいいのか、弊社の事業の落としどころを見つけるのが難しかったですね。
高齢者を人材として活かすことができそうだという話から始まり、高齢者が高齢者を見守るアイデアに繋がり、見守りセンターをつくろうと、だんだんバージョンアップしていきました。

柳川:岩瀬さんの事業と養父市の課題をマッチングさせるための調整が大きな課題でしたが、県の担当者である上平さんから、岩瀬さんの事業の活かし方や養父市で展開する必要性の伝え方など、たくさんのアドバイスをいただきました。 そのおかげで、総合戦略の基本目標の一つである「健康長寿のまちをめざす」というテーマに即していること、さらにこの取り組みが地方創生を考える企業や事業者の目に留まり、養父市での起業・創業促進に繋がることで雇用が生まれ、地域経済の活性化にも結び付くものであることなど事業と課題をマッチングさせることができました。
事業の審査会では、岩瀬さんがそんな将来への期待などを伝えられた結果、事業採択となり、いよいよ事業として進むことになりました。

高齢者が地域資源!? 誰も気づかなかった養父市の宝の活かし方

柳川:「元気な高齢者は地域資源だ」と教えてくださったのは、岩瀬さんでした。
養父市の地域資源と言えば、誰もが「自然」だと口にします。
高齢者が資源だとは、今回初めて指摘されました。
しかし、そう教えていただいてから、新しい切り口でのPRができると気づいたんです。
高齢者は、時にネガティブに捉えられてしまうことがありますが、特に元気な高齢者は、大きな可能性を秘めていることを改めて教えていただきました。

岩瀬:ITを得意とする高齢者は必ず育てられます。
そうすると、いくつになっても自宅のパソコンを使って働けるという、仕事の新しいカテゴリーが生まれます。
いい人材がたくさん集まれば、見守り電気以外の仕事を他の企業から請け負う仕組みを作ればいいんです。
ITを教えてくれる人、スキルを身に着ける場所、そして仕事も養父市にあるとなると、養父市に移住してくる人も生まれるはずです。

柳川:パソコンスキルを持つ高齢者を育てることで、他でもその人の実力を発揮できるシーンが増えていくと、第二・第三の岩瀬さんのようなIT事業者が養父市に来られても、マンパワーとして高齢者たちが活躍できるチャンスが拡がっていきますね。
高齢者のマンパワーを求める事業者に、「養父市に行けばたくさんの人材がいる」と発信することは、養父市にとってPRの材料であり大きな財産にもなります。これをIT企業誘致につなぐための第一歩にしたいと思っています。

岩瀬:もうひとつ、養父市にとっての大きな地域資源は「廃校」です。
当初、この廃校を利用する予定ではなかったんですが、事業所として借りられるよう私がお願いしました。
「ここで50年前に勉強した人たちが、もう一度ここで新しい仕事を勉強する。」写真を見せながらそう伝えると、それだけでまわりの人たちはみんな興味を持ってくれるんです。

柳川:12校あった廃校のうち、半分は企業が事業所として活用中です。使われることのないまま廃墟になっていくのは忍びないですし、生きている校舎を見たい。
学校って地域のシンボルのようなものですから、灯が消えてしまわないよう、どんな使われ方でも人の営みさえ感じられれば、地域も明るくなって活気が出ます。

岩瀬:地方でのIT事業として、近くの温泉を利用してプログラマーの肩こりを和らげる仕事場にした、アウトドアを楽しめる場所にアウトドア会社がIT事業所をつくったという事例がありますが、それは養父市には向かないと思っています。ここは神戸や大阪をはじめ大きな商圏が近い、車で移動するための交通の便もいい。
そう考えると、まずITありきの事業を考えることが本当にいいのか? 
私は高齢者という地域資源に着目しましたが、廃校も、水も、森も養父市の地域資源です。
まずはどの地域資源に着目し、どうITを組み合わせていくのかを考え、都会の事業者に企業誘致のアプローチをするべきだと思っています。

柳川:今回の取り組みをモデルケースとして、他のIT事業者に養父市にきていただき、地域の課題を国家戦略特区の規制緩和などを使ってすすめていただく。
さらにそこから、全国の企業が養父市での事業展開を考えるうねりが生まれてくれればと願っています。

行政力×企業力で、地域の課題は解決できる

岩瀬:今回は、弊社にとって地方行政との連携は初めてでした。養父市の場合は、どんなことでも話に耳を傾け、前向きに相談に乗ってくださいました。
「企画・提案は、形になってから持ってきてください」と言われては動けませんが、アイデアの段階でもキャッチボールをしていただけるので動きやすかったですね。

柳川:市長を筆頭にその自治体が、本気で事業やスキルを必要としているかどうかだと思います。熱意がなければ、キャッチボールになりませんから。
養父市の未来を考えた時、このたびの事業は有効で必要なものだと思ったので、前向きに対応ができました。

岩瀬:この養父市での事業をショーケースとして、他の事業者がおもしろいと思ってくれるよう積極的に話すようにしています。
すると実際に周囲でも、ITを使った養殖事業や、廃校でキャンプを行うアウトドア事業、廃校の体育館に発電所を入れる事業など、地方での可能性を探っている企業はたくさんあるんです。
まずは、弊社が成功事例になることが第一。そこから、いろいろな企業に養父市での事業所開設を勧めたいと思っています。

柳川:このたびの誘致にあたっては、やみくもに向かっていったところ、たまたま岩瀬さんに巡り合え、たまたま事業が地域課題にマッチしました。
しかし本来は、まずしっかり今の地域の立ち位置を理解して何が課題であって、何を解決すれば地域が潤うことにつながるのかを整理すること。
そして市民の合意形成を図ったうえで、どういう事業が必要なのかを自分たちで決め、地域全員でそこへ向かっていく必要があることを痛感しました。
明確なビジョンを自分たち自身で描いて共有し、交渉に当たること。
事業者任せではなく、行政側から問題提起を行っていくべきです。
地域には、行政だけでは解決できない問題が数多くあります。それぞれの道の専門家である企業の知恵やスキルをお借りして解決することが必要です。
これからは、ますますいろいろな事業者とタイアップをすることが大切だと思っています。

熱い想いを共有し、とことん寄り添う応援者として

兵庫県産業労働部 産業振興局新産業課 上平健太

地域創生戦略として養父市が掲げている高齢者支援と、事業者の事業がうまくマッチしました。
全国的にシルバー人材センターに依頼される仕事はブルーカラー的なものが多い中、ここ養父市からホワイトカラー要素の強い新たな仕事が生まれるのは先進的なことです。
成功事例に育てていただき、県内にも全国にも波及効果を生み出していただき、モデル地域として発信いただきたいと思っています。

また岩瀬さんがおっしゃっていた、「ITはコミュニケーションを加速させるもの」との言葉通り、高齢者同士のコミュニケーションが加速することで、ITを活用したビジネスのあり方だけでなく、ITを活用したコミュニケーションのあり方についても再定義を行っていただけるものと期待しています。
このたびの出会いを「いい出会いだった」ととらえ、現在の状況まで形づくられたのは、養父市役所の方々の熱意の大きさに他なりません。
みなさんの想いが響き合った結果、事業が力強く前に進んでいることを誇らしく思っています。

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(文/内橋 麻衣子 写真/三好 幸一 )

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