兵庫県トップクラスの移住受け入れ実績を誇る神河町がIT事業所の誘致を積極的に行う理由

( Records )
2023.11.20

兵庫県神河町は、兵庫県のほぼ中央に位置する人口約1万人の基礎自治体だ。兵庫県下ではトップクラスの移住受け入れ実績となっている。また、併行して実施している若者向け住宅政策では、転出抑制効果と転入促進効果を合わせると、直近の9年間で約1,400人の効果が上がっている。一方で、大学進学や就職に伴う若者の町外転出などの理由により人口の減少は続いている。

神河町役場の「ひと・まち・みらい課」では、移住定住の促進・企業誘致・観光誘致など様々な取り組みを行っているが、その一環として、兵庫県の新産業課が実施する「兵庫版シビックテック推進事業(社会課題解決型IT事業所開設支援)」に随伴支援する形でIT事業所の誘致を積極的に行っている。今回、同課で参事を務める真弓憲吾さんに、神河町がIT事業所の誘致を目指す理由について伺った。

兵庫版シビックテック推進事業(社会課題解決型IT事業所開設支援)
人口減少時代における兵庫経済の持続的成長に向けたイノベーションの創出と、社会課題の解決を図るため、高度なIT技術を活用して新たな事業展開を試みる企業の進出を支援することを目的とした事業。

神河町で若者が働く場所を作るためのIT事業所の誘致

神河町は兵庫県のほぼ中央に位置する町です。

映画『ノルウェイの森』の舞台となったリラクシアの森がある峰山高原や大河ドラマ『平清盛』『軍師官兵衛』のロケ地にもなった砥峰高原、生野銀山から銀を運ぶ日本初の高速産業道路であり日本遺産でもある銀の馬車道などが観光地として人気があります。芸能関係で言うと、女優の「のん(本名:能年玲奈)」さんは神河町の出身です。

また、峰山高原リゾートは、2017年12月、国内では14年ぶりにオープンした日本一新しいスキー場です。神河町は姫路や京阪神からのアクセスもよく、京阪神の都市部から日帰りで利用することができます。

豊かな観光資源を背景に県内外から多くの観光客が訪れる一方で、自治体としては人口の減少が続いています。人口減少の大きな理由が、若者の進学や就職による転出です。今の神河町には若者が働ける場所が少ない。そこで、この問題を解決するため、兵庫県と協力してIT事業所の誘致を積極的に行っています。

IT事業所の開設に加えて、移住に関する支援も行う”ダブル”サポート

現在利用者を募集しているIT事業所の開設支援制度では、建物の改修や事務機器の取得など事業所の開設に必要な費用だけでなく、物件の賃貸料や通信費(AWSなどのクラウドサービス費用なども対象)、高度IT人材の人件費など、事業運営に必要な費用も補助の対象となります。兵庫県の補助事業に随伴する形なので、神河町が独自に行っている創業支援制度等に比べて補助額が大きいのが特徴です。

また、単にお金を提供するだけではなく、事業に適した物件探しのサポート等も積極的に行っています。神河町への移住のサポートも担当していますので、自治体内の空き家や空き店舗の情報も管理しており、それらの中から条件に適した物件を紹介することができます。

「ひと・まち・みらい課」としては、今回お話するIT事業所の誘致だけではなく、若者世帯の家賃補助やリフォーム支援などの制度で移住者の受け入れを積極的に行っています。IT事業所の開設支援と移住者の家賃補助・住宅取得補助は、組み合わせて利用いただくことも可能です。

500人が雇用される工場を1つ作るより、5人が雇用される事業所を100個作る

働く場所の創出というと大規模な工場や物流拠点をイメージされることが多いと思いますが、神河町では500人の雇用が生まれる工場を1つ作るより、5人の雇用が生まれる事業所を100個作る方向を目指そうとしています。

神河町では大規模な事業所を設置するための用地確保が難しい状況にあります。役場に来るまでに田んぼを見てきたかと思いますが、大規模な工場を作るためには、今ある田んぼを潰さないといけない。神河町の多くの住民は、農地や田園景観を守らなければいけないという気持ちが強く、平坦な田んぼを潰して土地を確保することは法的な規制もあり難しい課題です。

また、今の神河町では求人募集をかけてもなかなか人が集まらない、必要な人数を集められない可能性が高く、また、大規模な工場が出来たからと言って、それだけで神河町から出ていった若者が町に戻ってくるということにはならない。そうであれば、若者に人気のある仕事内容などを考慮しても、IT関連の企業を誘致して若者が働きたい場所を少しずつ増やしていくほうが望ましいのではないかと考えているところです。

さきほど神河町の若者が大学進学や就職で出ていってしまうと言いましたが、若者の働ける場所を増やして彼ら・彼女らに戻ってきてもらうことが人口対策にとって重要と考えています。彼らが帰ってきてくれれば、神河町で結婚して神河町で子供が生まれて、良い循環が生まれます。自然が豊かで人情味も豊か、良いところがたくさんある町ですから、神河町に戻ってきて暮らすこともぜひ考えていただきたいと思います。

神河町に興味を持ったら「ひと・まち・みらい課」に相談してほしい

※OFFICE KAJIYANOのオフィス

IT事業所開設の補助金を活用した神河町での起業事例としては、OFFICE KAJIYANOという会社があります。現在は運営形態を変更されていますが、当初はコワーキングスペースを夫婦で運営されていました。KAJIYANOさんは以前は姫路に住まれていたので神河町への移住者でもあり、神河町での起業経験者でもあるので、移住や起業に関してKAJIYANOさんに相談に来る人も多いと聞いています。

今回の補助金は、制度の運営状況に合わせて補助の対象となる企業や人が定期的に変化しています。例えば、KAJIYANOさんが事業所を開設した頃はコワーキングスペースの開設が補助の対象でしたが、現在は補助の対象となりません(注:現在はIT事業所開設支援の対象外だが、別途設置されたされたコワーキングスペース開設支援の対象となる)。IT事業所の開設といっても自社の事業が補助の対象なのか分からないという方も多いと思います。この判断は補助金を出す我々や県にとってもなかなか難しいところです。なので、神河町に事業所を開設することに少しでも興味を持っていただけましたら、まずは「ひと・まち・みらい課」にご相談いただいて、補助金の利用が可能かどうか一緒に検討できればと思っております。

大学と連携した外国人留学生との密な交流

話は変わりますが、神河町は、神戸情報大学院大学(以下、KIC)と包括連携協定を締結しています。KICには外国からの留学生がたくさんいるのですが、連携協定の一環としてKICの学生が神河町をフィールドに様々な活動を行っています。先日はKICの留学生が田植えの体験にやってきてくれました。神河町に住んでいるおじいさん・おばあさんは外国人と馴染みが薄く、抵抗もあるのではないかと思ったのですが、意外とお互い和気あいあいと交流されていました。

また、KICの学生として神河町に来ていた台湾からの留学生が、もっと神河町で国際交流を盛り上げようと提案してくれて、この4月から地域おこし協力隊として神河町に来てくれました。彼が主体となって、神河町の国際交流を促進する「かみかわ国際交流コミュニティ(KACU)」が立ち上がりました。このコミュニティでは、町内在住の外国人の生活サポートを行ったり、お互いを知るための交流の場を作ったりしています。

日本では人口の減少が問題となっていますが、世界全体で見たら人口は増加しています。今後、外国人の受け入れを含めた国際交流は自治体として避けては通れない問題だと思います。国際交流を進める上で外国人に感じるハードルなど地元住民の意識の問題は大きいと思いますが、神河町はKICとの連携協定などを通じて外国人を受け入れる素地も整ってきています。IT事業所の開設補助は外国人の方も対象ですから、ぜひ外国のIT人材の方にも来てもらえたらと思っています。

今回お話したIT事業所の開設や国際交流を通じて、神河町がより活性化していくよう努力していきたいと思います。

神河町IT事業所・コワーキングスペース開設支援事業補助金

文/山田光利 写真/林 杏衣子、神河町・OFFICE KAJIYANO提供